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大雪りばぁねっと 代表逮捕について

2014年02月08日

1.「大雪りばぁねっと」岡田代表逮捕 
 NPO法人「大雪りばぁねっと」代表の岡田栄悟が、2月4日、岩手県警に逮捕されたと、知人の新聞記者から電話をもらった。東日本大震災の緊急雇用創出事業の事業費を私的に流用したことが逮捕の理由だ。記者から事件について取材を受けたのはほぼ1年前のことだ。それから逮捕まで1年、かなりの時間を要していたことがわかる。

 「大雪りばぁねっと」とは、北海道旭川市所在のNPO法人で、北海道庁から2005年に認証を受け、環境保全や救助訓練活動を行っていた。3.11の震災後、震災関連の補助金を北海道のNPOから受け、岩手県山田町で活動を始めた。
 2012年頃から、「山田町のNPOがおかしいのでは」という噂を耳にすることがあった。随分、以前から問題が表面化していたのだろう。実際、岩手県の社会福祉協議会や復興支援に従事する他県のNPO関係者が、山田前町長に「大雪りばぁねっと」のやり方に問題があると、進言したこともあったそうだ。だが逆に彼らが締め出されてしまったのだそうだ。山田前町長と岡田の関係は外部から見ていると”蜜月”いえるほど親密なものだったようで、法的には、山田前町長の善管注意義務が問われているようだが、”注意義務”以上の責任があったのではないかと思われる。
 そして、逮捕まで1年以上の時間を要したのは、この問題に関わる利害関係者の多さゆえに、問題と責任の所在を明らかにすることに難航したからではないだろうか。

2.「特異な例」でよいのだろうか
 テレビ報道の多くは、「大雪りばぁねっと」事件について、岡田氏の映像を写し、彼の奇行ゆえの犯行、復興資金の無駄遣い、という単純なストーリーで解説をしている。震災復興関連の緊急雇用補助金の制度上の課題については殆ど報じられていない。また、NPOについては「まじめにやっているNPOもいる」とNPOに気遣った発言のほうが目立っていた。

 実は、NPO関係者の間からもこの問題を公式の場で聞くことはあまりなかった。昨年11月に、NPO関係者を交えた座談会で「大雪りばぁねっと」問題が司会者から質問された。その時のNPO関係者の答は「あれは特異な例だから」というものだった。
 だが、NPO自身のコメントが「特異なこと」で本当に良いのだろうか。他人事のように扱っていてよいのだろうか。

3. 他律か自律か 
 NPO法人は、企業のように準則主義に基づいて届け出だけで登記できず、都道府県によって認証を受けねば設立できないことになっている。いわゆる規制の対象となる認可法人の一種であるのだ。だが、最も緩やかな手続きで認証されることになっており、よほどの問題がない限り、都道府県はノーということができない。
 NPO法は1998年に議員立法によって制定された法人制度で、ボランティアや社会貢献に関心のある者が、より容易に法人を設立できるようにハードルの低い制度として策定された。したがって、わずか52条で構成された法制度だった。株式会社にかかる法律は約1000条、新公益法人法は300条であることと比較しても、そのハードルはかなり低いことがわかる。

 ハードルが低くなれば、当然のことながら法人制度を利用する人は増える。実際にNPO法人数は順調に増加していった。だが、同時に、様々な団体が設立され玉石混交になることも免れない。たとえば、反社会的な組織がNPOを悪用するなど、悪質な組織が生まれることも避けられないだろう。

 ならば、規制を厳しくして、ハードルを上げればよいかといえば、それも難しいところがある。ちなみに、私はどちらかと言えば、規制派だろう。民主党政権下での認定NPO法人制度の要件緩和に強く反対していたからだ。認定NPO法人制度とは、認定されたNPO法人へ寄付をすると、寄付分を税額から控除できる税制であり、NPO法人制度よりはハードルが高い制度だった。それが寄付者や社会に対して、より高いハードルをクリアした団体なので、認定NPOであれば信頼できると、信頼性を担保している側面があった。しかし、民主党政府は、できるだけ多くのNPOに認定資格を付与するために、ある要件を満たさなくとも仮免許を与えることを決定した。それでは認定NPO法人制度の信頼性を低下させることになるし、NPOセクターの質向上を妨げることになると、NPOの評価基準を検討していた仲間と意見書を作成し、記者発表したことがある。
 だが、問題が起きたのだから、その対策として規制強化するというやり方には賛成しがたいところがある。より厳しい規制下にある法人がより多くの人々から信頼されているとは限らないからだ。規制を緩めれば、法人制度の信頼低下を招く確率は高くなるが、その逆は真ではないのだ。

 ではどうすればよいのか。まずは、NPOの中から、自らを律する動きを作り、社会に対して説明することが、まずは第一義であると思っている。他律的に規制を強化しても、当のNPOが納得し己が事として取り組まねば、定着しない類のものが信頼性だからだ。「エクセレントNPO基準」作成し、この基準を応募要件とした「エクセレントNPO大賞」(毎日新聞社との共催)は、そうした試みのひとつである。とても小さな試みであるが、NPO側の自発的な動きがなければ、信頼性の問題を根本から解決することができないと思っている。何よりも、ガバナンスなどの規律要件とともに、創意工夫力を発揮し成果を上げるための柔軟性をも共存させねばならない。信頼は規律だけでなく、実績を積み重ねた組織の魅力によって作られるものだろう。
 願わくば、「エクセレントNPO」基準以外にも、こうした自発的な試みが複数生まれ、活動や組織の質向上をめざして切磋琢磨しあうような好循環が生まれなければ、NPO全体の向上になってゆかないだろう。
 「大雪りばぁねっと」事件を「特異なこと」と語っていては、信頼という文字がますます遠のいてしまう。

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