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研究型大学トップ20のインパクト

2013年08月09日

1. 研究大学トップ20 
 8月6日、文部科学省より、研究大学として選出されたトップ20の大学名と補助金額が発表された(平成25年度「研究大学強化促進事業」支援対象機関及び配分予定額)。
ここで選ばれたのは、北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、東京工業大学、東京医科歯科大学、電気通信大学、名古屋大学、豊橋技術科学大学、京都大学、大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学、神戸大学、広島大学、岡山大学、九州大学、熊本大学、慶応義塾大学、早稲田大学、それに3つの共同利用機関で、正確には22の機関である。補助金額は1大学あたり、2億~4億円で、他の補助金に比し、さほど大きな金額ではない。そのためか、殆ど報道されていない。
 しかし、大学関係者には大きなショックであったことに違いない。名門といわれた一橋大学が、比較的規模のある千葉大学なども選から漏れている。これだけでも話題になりうるが、より深い意味がある。それは、戦後から現在において作られた、日本の大学界の構造の終焉を示唆するといっても過言ではないからだ。

2. なぜ、研究大学なのか
 そもそもなぜ、今更、研究大学なのか。大学とは、本来、研究・教育に従事する高等教育機関であることは言うまでもない。しかし、そこにあえて「研究大学」と銘打ったのである。私は、その理由として2つ挙げたい。
 第1に、科学技術政策の強化である。この点は、選ばれた大学が医学など科学技術分野で強みを発揮している大学であることからも明らかである。また、トップ20選定のための指標をみると、科研費の採択率は研究者当たりの配分額、国際的な論文数、民間企業との研究開発や技術移転となっており、明らかに理系分野の研究成果を想定して作られたものである。
 ちなみに、世界的な大学ランキングがいくつかあるが、日本の大学にとっては、結果的に英文論文の多い科学技術分野のアウトプットをベースに評価されることになる。安倍首相が、世界大学ランキング100位以内に日本の10大学を据えると宣言したが、必然的に理科系を強みとする大学をさすことになる。

3. より厳しい棲み分けが進む大学界 
 しかし、大学関係者にとってより大きな意味を持つのは第2の理由ではないだろうか。今回の発表は、研究により重点をおく大学とそうでない大学の棲み分けが明示のかたちで進められることが示唆されているからだ。
 現在、各都道府県に国立大学が存在する。これに加え、都道府県は地域活性化策の一貫として公立大学を創設した。また、90年代より、規制改革が進み、18歳人口の減少が予期されていたにもかかわらず、大学数は増加し、国立、公立、私立あわせて780余の大学が存在する。これらの大学間の研究業績の差は顕著であるが、研究型大学、教育型大学という言い方を避けてきた。国立大学では、「ミニ東大」という言葉が象徴するように、東大のような研究型大学をモデルに大学を運営しようとする傾向が強かった。
 こうした状況は大学教員の意識にも色濃く表れている。大学教員の多くが、研究者であることは強く意識しても、教育者であることの意識は希薄であるといわれている。また、採用の仕組みも研究中心で、教員の採用は研究業績を主に行われている。

 文教政策関係者は、随分以前より「大学の機能分化」について議論してきた。すなわち、研究型、教育型の大学、あるいは米国でいう総合大学とコミュニティ・カレッジのように、大学の類型を明確にし、戦略的に人的、資金的資源を配分すべきというものである。しかし、大学側の抵抗を配慮して思い切った政策を打つことはできなかった。小泉政権下で「トップ30」を掲げたものの実現には至らなかった。

 しかし、6日のトップ20大学の発表はまさにこうした状況に風穴を開ける一刀だったのではないだろうか。大学関係者者の中にはこの発表をみて、「やはりそうだったか」と思っている者も少なくないようだ。予想された結果、現実をつきつけられた、ということだろうか。
 トップ20の発表は、トップ20の大学というよりも、むしろ、選ばれなかった大学に「これから貴大学は、どのようなアイデンティティで運営しますか」と大きな課題をつきつけているのではないだろうか。
 

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