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「休眠預金」法案~預金者の視点から改良を~

2015年10月25日

東京新聞20151025

「いくつ預金口座をもっていますか」という質問に即答できる人はなかなかいないだろう。休眠口座とは10年以上出し入れがなく預金者と連絡のとれない預金をさすが、総額は800億円を超える。現在、休眠預金は銀行の益金として計上されているが、課税対象にするために国税庁の指導によってなされた。他方、それをNPO等の民間公益活動に助成金や貸付を通じて配分するというのが休眠預金法案だ。つまり、預金者は自らの預金を国に納めるのか、民間に譲渡するのかという重要な選択を迫られているのではないか。国会提出に向け審議中だが、この法案を知る者は意外に少ない。

 預金者視点から法案を読むといくつかの課題がみえてくる。第1に預金者が自らの預金が休眠であるかをどう確認するかだ。法案は預金者の要求に応じて返還すると記している。だが、まず預金者が簡便に確認できるような工夫が必要ではないか。英国の預金者向け簡易検索サイトはその一例だ。
 第2に配分先の活動分野が限定的に記されている。法案は、配分先となる活動分野を子育て・若者、生活困窮者、地域活力の低下等と記している。しかし、民間公益活動の実際はより多様だ。NPO法や公益法人制度改革の際に民間公益活動の定義について議論が重ねられ、その多様性に対応するために23分野が示された。本法案はなぜこれに準ぜずに限定列挙したのか。
 第3に配分を担う組織のガバナンスとコンプライアンスだ。本法案では、休眠預金は2段階を経て配分される。首相に指定された団体が指定活用団体として休眠預金を一括管理・運用するが、運用先として社会的インパクト投資も入るだろう。そして、公募によって選ばれた資金配分団体に送金し、そこから地域の公益活動に配分する。
 だが、なぜ指定活用団体は一団体に限るのか。これらの配分組織は資金仲介や運用機能を果たすことになるが、意思決定機関や監視に関する記載が薄く抽象的だ。また、資金配分を受ける団体の代表や理事が配分の決定に加わらないなど、利益相反に関する記載も必要ではないか。最近は反社会的勢力や犯罪にNPOが利用される事件が絶えず、悪用に十分に備えておく必要もある。預金者が納得、信頼して託せるような記載が必要だ。

 休眠預金法案は、その趣旨に基づけば、預金の配分を受ける公益活動団体と預金者の双方の理解と支持があるからこそ成り立つものだ。したがって、公益活動側に加え、預金者視点からの議論を重ね改良してゆくべきだろう。

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