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「働き方改革」を超えて

2017年01月01日

あけましておめでとうございます。
2017年が平和で幸多き年であることを祈念します。

昨年は、NPO(エクセレントNPO)や大学の評価、そして政府の評価の仕事に従事しましたが、新たに企業における働き方について議論する場を得ることができました。
 評価については、いかなる分野であれ、誠実であること、そして社会的な使命や目的を見失わないことが肝要であることを改めて学びました。そうでなければ、評価は権威や力の道具として誤用される可能性を孕んでいるからです。
 企業については、恩師ドラッカーがめざした「一人ひとりが位置と役割を持つ自由社会」の意味を、働く現場において熟考する機会を頂きました。ここでは、企業での経験を中心に記したいと思います。

1. 女性管理職とのリレー座談会
 昨年2月より、あるグローバル企業の女性管理職を対象にしたリレー座談会を開始しました。人事部との打ち合わせより、特に2つの点に注目しました。第1に、育児休業や時短など諸制度は比較的よく整っているのにライフイベントで優秀な女性社員が辞めてゆくという問題です。制度を導入しても問題が解消されていないとすれば、仮説に誤りがあるのかもしれません。
第2に、世代交代が起これば、いずれ問題は解消されるという意見でした。たしかに世代交代で解消される部分もあるのでしょうが、その背後にある問題を見逃して、先送りしてしまう可能性があります。そこで、現場の声、すなわち、女性管理職の意見を直接尋ねてみたいと申し出たのです。しかも選抜された特定の人とのみ話すのではなく、全員と話すことを条件としました。

2. 「昭和のおじさん」のDNA
女性管理職数は120人です。個別に面談するには時間がありません。そこで、1グループ7-8人として、ランチタイムに座談会を設けることにしました。全般に、仕事や同僚への満足度が高いのが印象的でした。しかし、出産を経て時短労働を始めた頃から、不安や不満の声が急に増えるのがわかりました。
 それらの声は「昭和のおじさんのDNAに染まらないとやってゆけない」という言葉に集約されているように見えました。「昭和のおじさん」とは、24時間、会社の仕事に時間を注ぐライフスタイル、より多くの残業や出張、つまりパフォーマンスよりもインプットの量で人事評価をすること、そして“阿吽の呼吸”によるチームワークを重んじることを指しています。出産までは、こうした価値観や雰囲気に合わせて仕事を進められるのですが、子育てが始まった途端に困難になります。
 他方で、「気にするな」という上司の言葉やアファーティブ・アクションも彼女たちの本意ではないのです。意外に思えるかもしれませんが、それが、問題の本質的な解決にならないことを知っているからでしょう。

3. 求められているのは成果目標と評価基準の明確化
 彼女たちは、育児休業や時短労働によって、一時的に生産性が落ちる可能性があることを認め、そこに無理に下駄を履かせるよりも、むしろ公平に評価してもらった方がすっきりするという意見も出されました。そうではなく、何を達成したら復活したと認められるのか、その成果目標と評価基準を明確にしてほしいという意見が複数から出されたのです。
 
 しかしながら個々の成果目標と評価基準を明確にすることは容易ではありません。その理由は企業文化と呼べるものの中にあるようです。一定水準の均質のメンバーで構成されている組織の場合、阿吽の呼吸や暗黙知によるチームワークで仕事が出来てしまう傾向があります。特に、日本の場合、その傾向が強いように思います。しかし、異なる働き方、価値観の者がメンバーに入った途端、阿吽の呼吸は通用せず、何をいつまでに達成しなければならないのか明確かつ具体的に示さねばならなくなります。そうなると、仕事の設計の仕方やマネジメントの仕方そのものを見直す必要が出てくるのです。

 成果目標と評価基準で全ての問題を解決できるわけではありません。しかし、これまでパッチワーク的に対処されてきた問題をトータルでとらえなおすための中心軸に位置するもののように思います。

 ちなみに、内閣府にヒアリングを行いましたが、「昭和のおじさん」も時短の悩みも他社が共通に抱えている問題であることがよくわかりました。

4. 「働き方改革」を超えて
 女性管理職座談会が示唆している問題は大きな改革につながる可能性が高いものだと思います。ですが、「一人ひとりが位置と役割を持つ自由社会」という目標に照らしてみると、道半ばであることがわかります。
 
 座談会の最後に、一人ひとりから、仕事でもプライベートでもいずれでもよいので「やってみたいこと」を述べてもらうようにしています。このような質問をしたのは、会社に何かをしてほしいと思う前に、まず自分が何をしたいのかを考えてもらいたかったからです。また、プライベートも選択肢に含めたのは、会社以外の世界に目を向けている人がどのくらいいるのかを知りたかったからです。

 様々な意見が出され、楽しかったのですが、気になる意見もありました。それは、定年退職を数年後に控えた人々の「何か社会のために役に立つ仕事をしたい」という意見でした。定年退職後の人生は長いが、退職後は、社会の中に位置と役割を見出したいという心の声を聴いたような気がしたのです。おそらく、それは女性社員だけでなく、男性社員も抱く気持ちではないでしょうか。また、若い世代には、会社と社会の双方に自らの位置と役割を見出したいと思う者も増えています。そうであるのならば、週4日は労働対価を賃金によって働き、週1日は子育てに、あるいは時間による労働対価と考えボランティア活動や社会貢献活動に従事する働き方があってもよいのではないでしょうか。高齢化社会に向けて、労働寿命が延びることに鑑みるとこうした考え方も有力な選択肢のように思えるのです。
 このように考えると、「女性活躍」や「働き方改革」を超えて、多様な人々が位置と役割を持てる働き方と社会のあり方を追求する必要があると思うのです。

 私は、NPO、大学、政府、企業と様々な分野での仕事や出会いに恵まれてきました。今年は「一人ひとりが位置と役割を持つことのできる自由社会」の実現に向けて、これまで培ってきたものを集約させるべく、新たな一歩を踏み出したいと思います。どうかよろしくお願いします。

2017年元旦
田中弥生

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