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ソーシャル・インパクト評価ブームにみる貧困問題

2012年10月16日

SROI(Social Return on Investment)など、非営利組織の事業成果を金銭換算して説明する活動が英国や米国で話題を集めている。ファンド系、金融系企業の出身者が熱心に普及につとめているようだ。日本でもファンド系企業出身者や一部のNPO関係者が普及活動を始めた。非営利組織が自らの活動成果をより体系的に説明し、新たな資金開拓の道につながることを期待したい。

他方で、彼らの評価の仕方をみていると疑問に思う点もある。

第1に、SROIの実行可能性の問題である。事業計画の段階で、事業成果を費用便益のかたちで予測することはさほど難しくないかもしれない。しかし、事業実施後に、その成果を検証して、金銭のかたちで説明することには相当なコスト(金、人、時間)がかかるため、実行可能性に疑問が残る。

第2に、評価主体の姿勢の問題である。そもそも誰のための、何のための評価なのかという点について明確な考えを持っているだろうか。どうも費用便益手法を用いて事業成果をマネタリーに算出することに気を奪われすぎているようにみえる。資金提供者に対して、非営利組織の信用保証をしたいのであれば、事業成果だけでなく、組織のガバナンス、資金の透明性など組織の信頼性にも目を向けなければならない。評価者は、非営利組織の様々な側面にあわせて、複数の評価方法を用いることができなければ、非営利組織の信頼性を説明することはできない。にもかかわらず、費用便益分析ばかりに目を奪われている様子を見ると、自らもっているスキルを非営利組織に使ってみたかっただけのようにみえてしまう。

第3に、なぜ、ファンド系の人々が、急速に非営利セクターに参入してきているのかという点である。その傾向はリーマンショック以降から強まっているそうだ。つまり、金融市場の成長に陰りがみえてきた時期からということである。彼らは、短期間で市場を動かすことができるとう快感、すなわちゲームで勝つことによる快感にも似たものに魅力を感じるそうだ(ゲームが苦手の私には想像できないが。)金融市場がだめでも、非営利分野でファンド市場を構築し、なおかつそれを使って「社会を変える」という一石二鳥の快感を狙っているのだろうか。まあ、手段はどうであれ、社会がよくなれば、よいのかなと思う。しかし、この議論、何かがおかしい。社会ニーズや困難を抱えた人々、つまり、受益者となる人々が蚊帳の外に置かれているからだ。

社会貢献活動の成果をマネタリーな表現方法でしか、理解しないできないとすれば、それこそ”プア”な感じがする。

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