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ネルソン・マンデラ氏 ~アパルトヘイト政策が意味すること~

2013年12月08日

ネルソン・マンデラ元南ア首相が亡くなった。南アフリカには3度ほど仕事で訪れたことがあるが、中でもイギリスの財団が主催した、南アの歴史と社会を学ぶ2週間のツアーが最も思い出深い。ツアーは、ヨハネスブルグに始まり、最後はケープタウンまで、南北に南アフリカを横断しながら、アパルトヘイトの歴史を識者から学び、貧富問題の現場を視察するためにスコッター・キャンプを訪れ、都市では経済活動(アフリカ諸国では先進的)、国会を訪問するというものだ。
 アパルトヘイト政策は、日本社会で生まれ育った者にとって、殆ど想像できないほど残酷な政策である。人種差別を徹底するために黒人居住区を別国とし区分し、あたかも別国のように扱った。彼らが地域を出る時にはパスポートが必要であった。つまり居住区を出るということは外国に行くことなのだ。
 こうして国を分割するうちに、一時は南アにある文部科学省が13個もあったというが、それは統治の仕組みまで分割してしまったことを意味する。しかし、黒人居住区だけでは経済活動はままならず、雇用を求めて、黒人居住区を出て、白人居住区に肉体労働者として出稼ぎにゆく。その結果、黒人居住地区の最貧困層であるスコッター・キャンプを訪れると女性と子供と老人ばかりで、男性の姿が見えないのだ。

 エンパワメントという言葉がある。それは人の能力を向上し、生きる力や姿勢をも高めてゆこうという概念である。その真逆がディスパワーメントだ。アパルトヘイト政策を学んでみると、人間をディスパワメントするのに最も威力を発揮するのは「差別」であるということ、そしてそれが国や社会を壊滅的に破壊してしまうことがひしひしと伝わってきた。人は、武器ではなく、差別と憎しみで、国を壊滅させることはできるのだ。
 こうした破滅的な状況の中で、27年間の投獄の後、「人を許す」という方針を打ち立て、「和解」を通じて国を再建しようとしたのがマンデラ氏である。このような強靭な人物がこの先、世界に現れるだろうか。氏のご冥福を心からお祈りする。

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