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フードバンク山梨訪問記 ~配達先ファイルと自己責任論~

2019年07月05日

「フードバンク山梨」を協賛企業の皆さんと訪問しました

 

2019年7月3日、認定NPO法人「フードバンク山梨」を訪問しました。「フードバンク山梨」は、第6回エクセレントNPO大賞「課題解決力賞」を受賞されました。今回は、同賞に協賛してくださっている日本生命、野村HD、SCSK、そして共催の毎日新聞社の総勢10名が参加しました。参加者は、「フードバンク山梨」の活動や貧困問題について勉強した後、近くの倉庫で、食品の仕分けと箱詰めのボランティアを体験しました。箱詰めの際に、配達先の家庭のプロフィールを見ながら、それぞれの家庭に合う食糧を詰めてゆきました。各家庭の事情に驚きながら作業をしましたが、時間が経つのも忘れ作業に没頭されていました。皆さん気持ちの良い汗をかいたと思います。

1. 「フードバンク山梨」とは ~一人ボランティアから始まった~

「フードバンク山梨」は、企業や市民などから、賞味期限内でまだ安全に食べられるのに、箱が壊れた・印字が薄くなった等で販売できない食品や消費しきれない食品の寄贈を受け、生活困窮者や施設・団体などに無償で配布しています。行政機関との連携により食料支援が必要な生活困窮者へ定期的に食品を届ける「食のセーフティネット事業」を中心に、最近では、子どもの貧困、乳幼児の貧困問題に着手すべく、活動を展開しています。

 

「フードバンク山梨」の活動は、代表の米山けい子さんの“一人ボランティア”から始まりました。前職を退職後、何かできることがないかと模索し、賞味期限内で、安全なのに破棄されてしまう食品を集め、自宅を倉庫代わりにして、地域の福祉施設に送る活動が最初だったそうです。

そして、活動を続ける中で、様々な問題が見えてきたそうです。ひとつは、食品ロス問題です。防災品、中身には問題がないが包装に破損がある食品、贈答品など年間646トンの食品が、未だ食べられるのに、捨てられていることでした。

そして、もうひとつは貧困問題でした。ある日、米山さんに連絡が入りました。明日の食事を確保するのも大変で、助けて欲しいというものでした。訪問すると二階建ての家で、車もあります。ですが事情はそうした外見とは異なりました。依頼主の方は、妻の介護のために自営業を休業したのですが、年齢的に再開が困難になり、生活困窮に陥っていました。電気も止められる中、寒い部屋の中で、コンロでおかゆを焚いていたそうです。一見、普通に見える家ですが、実は困窮に陥っている家庭は、他にもあるのではないかと思い、開始したのが、貧困に直面する家庭に食品を配達する活動でした。

2. 子供の貧困問題へ

活動を進めてゆく中で、さらに見えてきた課題が「子どもの貧困」でした。最近でこそ「子どもの貧困」問題がメディアで取り上げられるようになっていますが、まだまだ社会的な認識は薄いようです。しかし、現実には、280万人、すなわち7人に1人の子どもが貧困に直面し、満足に食事ができない状況に陥っています。山梨県も例外ではなかったそうです。シングルマザーの家庭で、お母さんは介護やスーパーの仕事で朝から晩まで働き続け、子ども手当をもらっても、家賃や食費を賄いきることができず、困窮状態に陥っていたそうです。そうした家庭に、フードバンクの車ではなく、宅配便で、そっと食品の入った箱を届けます。2019年現在、657世帯、1366人が「こども支援プロジェクト」のサービスを受けています。

また、無料学習塾も始めました。ここでは、勉強した後に、暖かいご飯も提供され、皆で食卓を囲みます。

また、乳幼児のための支援活動も始めました。これは、家庭や専門家へのヒアリングから生まれた活動です。乳児を抱えた母親が、相談相手もなく、途方にくれている状況が明らかになりました。そこで、この問題に対応するために「乳児応援プロジェクト」を開始しました。ミルクやおむつの無料配布に加え、医師相談、歯科検診、弁護士相談サービスを提供し、育児と生活を支えるための支援をしています。

3. 活動を支える仕組み

「フードバンク山梨」の活動を支えるためには、多くの関係者との連携とそれを効果的に機能させるための仕組みが必要になります。

 

「多様な主体との連携」

山梨県内の自治体、社会福祉協議会、ソーシャルワーカー、学校、企業と連携を組んでおり、その輪は確実に広がっています。

例えば、子どもたちや各家庭の状況を把握したり、食事を届けるためには、行政、社会福祉協議会、学校の協力が必要になります。必要な家庭に、法律や条例に触ることなく、適切に食品を届けるためにはこうした公的機関との連携が不可欠なのです。

また、学校にアンケート調査を行い、現場の情報を収集・分析しています。こうした調査や情報収集を丁寧に行うことで、「子ども支援プロジェクト」や「乳幼児応援プロジェクト」が生まれ、日々、改善が加えられています。

 

「フードドライブ集荷拠点」

また、食品を企業や各家庭から集めるための拠点も必要になります。あまり遠方では届けることも難しくなります。そこで、県内の市役所や社会福祉協議会、学校の協力を得て、45か所に集荷拠点を作りました。

 

「企業、市民の参加」

地域の企業や市民の皆さんに、食品の寄付だけでなく、仕分けや箱詰めのボランティア、子ども食堂やバーベキューなどへの参加を通じて子どもと接する機会を積極的に作っています。こうして、フードバンクの存在や身近なところに潜む貧困問題に関心を持ち、共に考え、参加してもらう機会を作っています。それは、子どもたちだけでなく、参加した人々の成長にも通じることでしょう。

「政策提言活動」

また、フードロス、貧困問題は全国に広がる社会問題です。また、この活動を次世代にもつなげてゆくためには、全国的な仕組みを作る必要があると、米山さんは考えました。そこで、作られたのが全国フードバンク推進協議会です。現在、全国28の団体が加盟し、議会に対する政策提言活動などを行っています。食品ロスに対する認識を高め、より多くの企業や個人が参加しやすい制度的な環境作り、フードバンクの活動環境の整備など、制度的課題は山積されています。

4. エクセレントNPO大賞協賛企業の皆さんでボランティア・ツアー

7月3日、エクセレントNPO大賞協賛企業、毎日新聞社、そして運営委員の総勢10名で、「フードバンク山梨」を訪問しました。「フードバンク山梨」では、食料の仕分けや箱詰めボランティアを体験させてくれる機会がありますが、そこに参加させていただきました。

 

午後1時に事務所に集合し、代表の米山さんから、「フードバンク山梨」について説明を受けました。その後、車で近くの倉庫に移動しました。倉庫では担当スタッフの方々が待機してくださり、施設内の説明をしてもらいました。食品関係の倉庫だったところを借りているそうですが、水道やエアコンもないために、苦労している様子でした。倉庫の外には簡易トイレも設置されていましたが、こちらは助成金で設置したそうです。

 

「仕分け作業 ~仕切り役のお陰でスムーズに~」

いよいよ食品仕分けの説明が始まりました。珈琲・お茶、スープ、砂糖、麺類などの箱に期限を確認しながら食品を入れてゆきます。2019年8月までの食品は別棚へ、それ以降の食品は写真の段ボール箱に、期限が記されていないものは破棄します。

お米は大事な配布品です。以前は重さを測って袋に詰めていましたが、かなりの手間がかかり、しかも虫が湧いてしまうです。そこで真空パック機械を購入しパック詰めに切り替えました。コツがいる作業で、おそるおそる挑戦しました。

いよいよ仕分け作業が始まりました。皆が、やや戸惑いを示す中、参加者の一人がリーダーシップを発揮。食品ごとに大まかに担当を決めてくれたことで、導線が混乱せずに済みました。それを見ていた「フードバンク山梨」のスタッフの方々も、こういう方法もあるね、とスムーズに作業が進む様子を見て感心していました。

 

「箱詰め作業 ~配達先プロフィールをみて絶句しながられも思いを馳せて~」

仕分け作業は予定より早く終わりました。そこで、箱詰め作業に入りました。大小2種類の箱が用意されました。小さい箱は1~2人家庭用、大きい箱は3人以上の家庭向けです。張り紙をみて、食品を詰めてゆくように指示されました。この作業は比較的スムーズに済みました。ですが、本番はその先の作業でした。

各箱にファイルが置かれてゆきました。ボランティアは、各自担当する箱を決めてゆきます。ファイルを開くと、配達先の家庭の状況が記されていました。過去の配達品のリストに加え、家族構成、年齢、乳幼児の状況、そして電気・水道・電子レンジの使用可否が記されています。

電気・水道が通っていない家庭もありましたが、そうなるとお米を調理することができないので、お米を外し、代わりにレトルト食品や缶詰を入れます。子どもがいるところはお菓子を加え、箱を開いた時に、真っ先に見えるように置く人もいました。独り暮らしのお年寄りには、お茶やサバの缶詰、塩飴を入れていました。ファイルを見ながら、各自が、家庭の事情を考え、どうしたら喜んでくれるかを考えながら箱詰め作業を進めていました。「水道通っていないんですよ」と驚きの声も時々聞こえてきましたが、皆さん、夢中で作業されており、あっという間に5時になりました。気持ちの良い汗をかいたと思います。

5. 情報交換会

夕方からフードバンク代表の米山さん、スタッフの足立さんを囲み、情報交換会を行いました。それぞれが感想を述べ合いましたが、会社のCSR活動につなげたい、いつか地元でフードバンクを運営したいという意見も出されていました。

様々な意見の中で、印象に残ったのは「自己責任論」に関するものでした。貧困問題については、助けたいという意見と同時に、「なぜ貯金していないのか」「努力が足りないのではないか」等の自己責任論は必ず、聞かれます。

子供が何人もいながら、さらに乳飲み子を抱えている母親の状況、家の中が荒廃している様子を見て、子どもを支援しても、親御さんの意識や家庭の状況が変わらねば問題解決しないのではないかという意見もありました。

 

米山さんは、「大人の責任はあると思う。しかし、子どもに自己責任を問うことはできない。そして、7人に1人の子どもが貧困に直面しているというこの規模に鑑みれば、社会の問題です」と述べていました。

 

日本は、他国と比較すれば、一定の経済水準にあり、社会保障制度も整っていると言うことができるでしょう。そうした状況下で、貧困問題を議論すると、様々な意見が出るのはごく自然なことであると思います。

しかし、ここまでの規模に貧困問題が広がり、世代を超えて固定化する傾向がみられる中、明らかに格差問題が生じていると言えるでしょう。つまり、個人の努力に加え、社会システムの問題になっているのです。この問題は、悪化すると社会を分断させ、その安寧を揺るがします。また、大事な人材の大半をうまく生かすことのできない状況を生み出してしまいます。そして、この問題を社会保障制度で解決しようとしても限界があります。特に少子高齢化と財政難に直面するわが国においては、その解決はますます難しくなると言えるでしょう。

こうした中、地域において、手を差し伸べる人と、それを受ける人が、もう少しオープンに「お互い様」と言って、助け合う社会を作ることが必要ではないかと思います。それは、一見地味で、ひとつひとつは小さな試みですが、そうした行為をする人の厚みが力強い社会を築くのではないかと思います。

「フードバンク山梨」は、支援を受ける人のみならず、支援する方々へも様々なアプローチを展開していますが、こうした「お互い様」の社会を作るための大事なインフラになっていると思いました。

 

フードバンクの皆様、ありがとうございました!

ボランティアの皆様、お疲れ様でした!

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