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世界大学ランキングの限界と特徴 ~日本はどう征服するのか~

2014年06月18日

1. 政策に掲げられた大学ランキング
 大学ランキングが注目を浴びて久しい。最近は、安倍首相が、今後10年で日本の10大学を世界トップ100入りさせることを政府の方針として明言した。中央公論(2014年2月号)では、「大学の悲鳴 ~ランキングと業績評価の功罪~」という特集を組んだ。そこではランキングに対する賛否両論が取り上げられているが、下村文科大臣、財務省の官僚はランキングを積極的に活用すべしと述べている。ランキングが完璧なものではないにせよ、それが世界的に影響力を持っているという現実を踏まえ、大学はベンチマークとして活用すべきだというものだ。
 こうした議論がトップレベルで行われている一方で、大学の現場は戦々恐々としている。普段はあまり動じない東京大学でも、ランキングについては敏感だ。Times Higher Educationのランキングでは東京大学が22~25位前後で揺れ動き、度ごとにメディアで報道される。国内の大学ランキングは入試の際の偏差値で代用されていることが多いが、中小規模の大学にとっては志願者数などに直接影響することから、大学経営や存続に関わる問題だ。
 だが、一呼吸おいて考えてみたい。ランキングの特徴や限界をよく理解しないままに翻弄されていないか。それは、大学関係者のみならず、私たち日本人にとって不本意なことではないか。

2. 知っておくべき大学ランキングの限界
(1)ミスリードの可能性
 世界大学ランキングというと、一種類しかないようにみえるが、実は何種類ものランキングが現存している。しかも、大学のどの部分に着目して評価しているのか、その視点も対象も異なるのだ。したがって、安倍首相のいうトップ100が、どこのランキングのことをさしているのかで意味が異なってくる。例えば、研究を重視するのか、それとも教育を重視するランキングなのかでも大学の順位は大きく変わる。さらに、研究でいえば、研究機関でかなりの業績を上げているところがあるが、これらは大学ランキングに含まれない。

 大学ランキングが、大学のどの部分に着目し、どのような情報を集めて分析しているのかを理解しておかないと、ミスリードされてしまう可能性がある。ランキングを行う組織は、大学が開示しているデータに加え、独自に行う大学向け調査のデータをもって分析を行っている。しかし、これらの情報だけで大学の全容を浮き彫りにすることは困難だ。また、研究に関するデータは、比較的定量分析が可能なものが多いので、ランキングの分析も研究情報に偏ることがある。その結果、大学の研究面により比重が置かれ評価され、ランキングされることがある。Times Higher Educationの場合、そのランキングは、研究のウエイトが62.5%であるのに対し、教育のウエイトは30%である。なぜ、このような割合になっているのだろうか。おそらく、分析上の方針があるのではないだろうか。評価者であるならば、この点を明確に示すべきだろう。

(2)研究分野のランキングの限界 
研究分野に特化したランキングでは、トムソン・ロイター社のWeb of Scienceやエリゼビア社のScopusが有名だ。これらは学術論文に掲載された論文数やその論文の引用数などを分析し、ランキング情報を提供している(このアプローチでは、研究者個人の世界ランキングも可能である。)学術論文数は、ピア・レビューアーによる査読によって質や水準が保証された論文の数を確認することを意味する。また、引用数は、他の研究者にどの程度、評価され引用に至っているのか、つまり研究者間の“市場的評価”を意味している。
また、これらの組織は、もともとは学術雑誌や書籍を発行している出版社であり、出版事業を通じて蓄積された膨大なデータをもとに分析を行っている。日々、データは更新されデータ量も増えてゆくのだから、分析精度も上がってゆくことだろう。
だたし、その限界も明確に抑えておかねばならない。まず学問分野が限られているという点で、自然科学、ライフサイエンス、医学分野に焦点が当てられている。換言すれば、その他の分野、特に文系分野の分析は相対的に薄い。また言語の問題も大きい。ここでの分析は主として英語論文に限られている。英語以外の言語の論文は分析対象から外れることになる。そうなると英語論文数の少ない学問分野(日本では、法律や歴史、文学など)は対象外に置かれることになる。

(3)ランキング組織のアカウンタビリティ
また、ランキングに従事する機関としてのアカウンタビリティも問うべきだろう。先のランキングの他にも、上海交通大学によるランキングやベルリン・プリンシプルによる大学ランキングなどの試みもある。しかし、中には、分析の際に用いた情報や指標に関する情報開示が十分になされていないものがある。これではランキング情報の信頼性を検証することが難しい。
 

3. 日本の大学の問題
(1)情報を閉じることは防衛策にならない
 大学ランキングに対する日本の大学の反応は総じてネガティブだ。嫌悪感のみならず、ある種の恐怖心まで見て取れることがある。それは、前述のように、ランキング情報が大学経営を直撃することがあるからだ。また、ランキング情報が大学の実態を反映していないとして、不信感の声も聞こえてくる。そして、規模や性格の異なる多様な大学をひとつの尺度で比べて欲しくないと、大学を比較すること自体に反対する声もある。
 そのためだろうか、情報開示に消極的な大学もある。下手に情報を出して、不本意なランキングに載せられるリスクを敬遠してのことだろうか。
 だが、情報を閉じることは、防衛策としては得策ではない。情報を閉ざすほど、限られた情報で、外から評価されることになるからだ。むしろ、積極的に情報を開示し、他大学と比較をした上で、強みを発掘してアピールすることが求められているのではないか。大学は過酷な競争時代に突入しているが、情報を開示しなければ、競争に負ける以前に、競争に参入できなくなってしまう。

(2)ランキングを観る視点 
私は、ランキングを過度に恐れず、翻弄されず、逆に、使いこなす気概が必要であると思っている。そのためには、どのような類のランキングであるのか抑えることが重要だ。例えば、オランダのウエストハイデン教授が提示した視点は参考になる。

・組織単位の評価をしているのか、それとも学問分野の評価をしているのか、
・国内の大学を対象にしているのか、それとも世界大で大学を捉えているのか、
・研究を重視しているのか、教育を重視しているのか、
・主として誰を対象にランキング情報を発信しようとしているのか
・情報源や情報収集方法、分析方法やそれらにかかる情報開示の状況。

このような視点を持つことができれば、ランキング情報をより適切に取捨選択ができるようになるのではないか。何よりも、ランキング情報をより冷静に捉えることができるだろう。

4. フォーラム「大学の多元的道しるべ ~ランキング指標を問う~」
大学ランキングをテーマに、国際フォーラムを企画している。基調講演者には、先のウエストハイデン教授を迎える。同教授は、EUの資金を得て、オランダの大学とドイツの会社との共同で、U-Multirankという新たなランキング・システムを設計し、運営している。同氏は、各種の大学ランキングをレビューし、それらの限界を指摘した上で、新たなランキング・システムを構築しようとしているが、フォーラムではその進捗状況を披露してもらう。
 引き続きパネル討論を行うが、ここでは、文部科学省、岡山大学、金沢工業大学、兵庫県立大学を討論者に迎え、ランキング情報や学内データの活用と課題について自らの事例を交えながら討論する。例えば、岡山大学はトムソン・ロイターのデータを用いて、教員の研究状況を世界大の視点から評価し、その結果をもって研究費の配分額を決定している。興味深いのは、最近、著名な先生方が岡山大学に集まってきていることだ。
そして、ウエストハイデン教授を交え、ランキングの限界を踏まえた上で、それをどう使いこなすべきかを議論したい。
日時、場所、申し込みは下記のとおりです。是非、ご参加ください。

主催:(独)大学評価・学位授与機構、共催:大学基準協会、日本高等教育評価機構、短期大学基準協会、認証評価機関連絡協議会
日時:8月1日 午後1時~5時
場所:一橋講堂(学術総合センター2F)(竹橋駅、神保町駅)
申込:http://www.niad.ac.jp/n_kenkyukai/

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