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世界大学ランキング指標にみる危さ

2014年09月19日

1. 双璧をなす世界大学ランキング
「世界大学ランキングトップ1に日本の大学が10件入ることをめざす」と安倍首相が述べたのは昨年(2013年)5月のことだ。今年、2月に下村大臣は『中央公論2014.2』の中で、ベスト100に10校入れるためには、評価基準にあわせた戦略が必要であり、その戦略のひとつが大学の国際化をめざしたグローバル大学事業(公的補助金)であると述べている。世界大学ランキングは政治家の間でもすっかりなじみになった。
 安倍首相、下村大臣は、どの社の世界ランキングか明確に述べていないが、おそらく、Times Higher Educationによる世界大学ランキングのことだろう。世界大学ランキングは欧州を中心に複数存在するのだが、Times Higher Education(THE)とQSによるものが、大学ランキング界の双璧を成しており、中でも日本で引用されるのは圧倒的にTHEだからだ。
 
2.寡占状態の疑似市場
 世界大学ランキングは、大学のみならず、資金提供者、政府機関など様々な主体に大きな影響を及ぼしている。自国大学のランキングを上げることに熱心なのは日本政府だけではない。フランス、ドイツ政府はランキング上位大学に補助金を投入している。大学もランキング地位を向上させやすい研究分野や研究者を優遇するなど、少しでもランキングを上げようと躍起になっている。最近では、自らの大学ランキングを向上させることを職務として命じられる理事や職員も少なくない。
 それは、あたかも、ランキングを構成する特定の指標(論文被引用率等)が公共性を帯び、大学、政府、雑誌社などの関係者間に熾烈な競争を巻き起こし、疑似市場が生まれているようにみえるのだ。
 
 こうしたランキング現象の背景には、大学評価の難しさやわかりにくさがある。大学の研究分野は実に多様だ。国立大学だけでも1400以上の学部・学科が存在しているが、宇宙物理から文学まで実に幅広い。これらを一つに並べて一様に評価することは不可能だ。また、教育成果も測定しにくい。効果の発現には個体差があるし、学生が身に付けた能力が教育によるものかを特定することは困難である。したがって、大学の様々な役割や機能を忠実に評価しようとするほど、その結果は複雑であったり、抽象的な表現に留まり、解釈は多義的になりがちである(無論、だからこそ大学評価において改善の余地があるのだが)。
 その点、大学ランキングはシンプルで、評価結果を明快に順位づけしてゆくのでわかりやすい。その意味で、大学ランキングは、大学評価の痛いところをうまく突いているようにみえてならないのだ。

 他方で、歪んだランキング競争の可能性もある。前述のように、世界ランキングはTHEとQSが双璧をなしていることから、いわば寡占状態にあるといっても過言ではない。そうなれば、寡占状態につきものの談合、公正性に欠けた作為などが起こっても不思議はないだろう。実際、偽名を使って自らの論文をかたっぱしから引用して、被引用指数を上げてランキングの位置を急上昇させるなどの「ゲーム的な行為」例がいくつも生じている。

3. 「評判指標」の疑問
 そもそも、大学ランキングとは、「大学を構成するいくつかの要素を選び、その要素を「指標値」というかたちで計量化して量を与え、さらに重みをつける。それを足し合わせた結果を大学に「点数」として与え、それらを序列化する行為」(田中:2014)のことである。

 つまり、ランキングの地位を上げるためにはランキングを構成する指標値を上げる必要があるのだ。大学ランキングに用いられている指標は、ランキングの種類によって若干異なるが、前述のTHEやQSの指標は最もオーソドックスだ。THEの場合、「研究費収入(6%)、論文数(6%)、教員による評判調査(18%)、被引用数(30%)、学生対教員比率(6%)、博士授与数(2.25%)、学士授与数対博士授与数比率(4.5%)、大学の収入(2.25%)、教育に関する教員による評判調査(15%)、外国人教員比率(2.5%)、留学生比率(2.5%)、国際共著論文比率(2.5%)、外部資金(2.5%)」となっている。( )内のパーセンテージは、先の定義の重みであり、いわばその指標値の重要度を示したものだ。

 そうなると、重みの高い指標値を上げることが、ランキング地位を上げることへの近道である。ちなみに、下村大臣は国際化を進めることでランキング地位を向上させると述べているが、外国人教員比率や留学生比率のウエイトは低い。ある研究者が感度分析を行っているが、これらの指標値を上げてもランキング地位の向上にはほとんど寄与しないという。
 重みが高いのは、被引用数(30%)と大学研究に関する教員による評判調査(18%)、教育に関する教員による評判調査(15%)で、これらの値を上げることがランキング地位向上の鍵を握っている言っても過言ではない。
 評判調査とは、大学教員へのアンケート調査で、知っている大学を複数挙げてもらうというもので、英語では「reputation」と呼ばれている指標だ。他の指標が客観的であるのに対し、評判指標だけより主観的で曖昧な印象だ。なぜ「評判指標」なのだろうか。。。

 あるパネル討論で、学術誌『Nature』のディレクターと一緒になった。ディレクターは、日本の大学の戦略不足を指摘し、自らが発行する雑誌に広告を載せれば、大学関係者の目にとまりやすくなるので、評判指標を上げることができると熱心に勧めていた。
 その様子を見ながら、「評判指標」とは、まさにこのためにあるのではないかと思った。つまり、広告料を大学から徴収しビジネス化するために評判指標が存在しているのではないか。おそらく、最初に評判指標が置かれ、そこから、この種のビジネスが生まれたのだろうと思う。だが、それが、大学の本質の向上とどうつながるのだろうか。

4. 大学ランキングと賢くつきあう
 今、世界大学ランキングに翻弄されている者は少なくない。政府関係者も大学もランキング地位の向上をめざし頑張っているが、その努力は必ずしも大学の研究や教育の質的な向上とは関係ないものもある。そうしたことばかりに集中していると、本末転倒になり、大学の本質を見失う可能性がある。昨今の世界大学ランキングブームにはそうした危うさや、それを逆手にとったビジネスの兆しが見え隠れする。

 たかが大学ランキング。されど大学ランキング。もやは大学ランキングを無視することもできないだろう。大学や政府関係者は、大学ランキングに翻弄されることなく、賢く付き合うことが求められている。
 
 

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