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全米NPO学会にみる大会運営戦略

2012年11月17日

16年ぶりの全米NPO学会(ARNOVA)への出席である。今回は、自らの発表とともに、学会長として大会運営のあり方について学ぶという2つの目的をもって大会に臨んだ。

「評価関連のセッションが目立った今大会」
全176セッションが4日間で行われる大会だけに、分刻みのスケジュールが組まれている。同時進行で10~13のセッションが組まれているので、傍聴するセッションを用意周到に選択することが求められる。そこでパンフレットを眺めてみるが、発表テーマとタイトルだけなので、なかなか難しい。全米NPO学会のパンフレットは、日本NPO学会の要綱とは異なり、発表要綱の掲載はなく、大会スケジュールとスポンサーのみで構成されている。それでも立派な冊子になるのは豊富な発表数のためである。
プログラムを全貌してみると、評価関連のセッションがかなり多いことに気づく。他方で、さぞかし多いのではないかと期待した社会的企業については思ったより少なかった。ここ数年は社会的企業の発表が多かったようだが、流行が評価へと移ったということなのだろうか。
評価関連のセッションを選んで3セッションほど傍聴してみたが、その内容はごく基本的なものであった。注目すべきは、助成金とともに評価を義務付ける財団が増えたこと、寄付者を意識してより積極的に評価に取り組むNPOが増えていることだろう。
ただし、個人的には、「ティー・パーティー」や「ウォールストリートを占拠せよ」などの市民運動に関する比較分析やコミュニティの意見を代弁する小規模でインフォーマルなグループとデモクラシーに関するセッションが面白かった。抗議デモに対して、周囲の市民は様々なかたちで寄付や支援をしていたようだ。ハーバート大学ハウザー非営利センターのデービット・ブラウン教授が「私も実際にデモに参加したのだが、おばあさんがカップケーキを私に手渡してくれたんだ」と語っていたが、デモを通じて周囲の市民との交流や共感が起こっているようだった。こうした市民の動きが、どのように民主主義を強化してゆくのか、そして何がトリガーになるとポピュリズムへと向かってゆくのか、そのメカニズムについて深堀してほしい。また、日本の現状に鑑みれば同種のテーマが重要な研究課題になるように思えた。

「ファンドレイジングと参加率の高さに感心」
 また、冒頭で述べたように、今回は日本NPO学会会長として参加させて頂いたが、全米NPO学会の運営の仕方についてはとても参考になった。何よりもファンドレイジングに長けており、ゲイツ財団、モットー財団、リリー・エンダウメント、セイジ出版社、助成財団センター、インディアナ大学などから助成金を得ている。また、12種類の表彰があったが、これもファンドレイジング戦略の一貫のようにみえた。こうした助成金のおかげで、参加者のランチやレセプションなどが無料になっている。食事もパッケージになった大会であれば、会員はより参加しやすくなるのではないか。また、インディアナポリス市は、全米NPO学会の大会開催の週をフィランソロピー週刊としており、街をあげての歓迎ぶりを示していた。
こうした創意工夫が功を奏しているのだろうか、全米NPO学会の学会員数は約1000人で、大会への参加率が5割以上といわれている。日本NPO学会の参加率が3割弱であることを考えると、全米NPO学会から学ぶ点は多い。

「運営の難しさを垣間見た総会」
16日全米NPO学会の総会に出席した。朝7時からの開催というのも異例な印象を受けたが、全176セッションの合間を縫うようにセットされていた。他のセッションでは朝食は出されないのだが、このセッションだけは朝食(クロワッサンやペストリー、果物、飲み物)が用意されていた。うがった見方かもしれないが、出席者を確保するための苦肉の策のようにもみえた。ただ、出席率はさほど高くなく、過去の理事や常連客が大半を占めているようだった。
会長が女性のせいだろうか、女性役員が次々と壇上に上がって発言した(ちなみに次期会長も女性)。決算報告と活動報告が一通り済むと会場からは様々な意見が出された。フルタイムの事務局長を早く探すようにという意見、会費収入が減少気味であることから、会員拡大方法に関する意見など、それぞれの思いに基づき、様々な意見が出されていた。会長は意見が出される度に「ありがとうございます」と少し大きめのジェスチャーで応えていた。これだけの沢山の要望にどう応えてゆくのかと思って周りを見回すと、書記がいるわけではなさそうだ(私が見つけられなかったからかもしれない)。また、会長も具体的にコミットした意見は述べていない。総会の場は、「意見を出し合う場」と位置づけられているのだろう。
一般に学会の強みとは、特定分野の専門家集団でありながら、多様な考えや意見を持つ人々が集い議論を交わす場を創出すること、つまり、多様性であると思う。しかし、その分、合意を形成し、組織体として前進させることは難しくなる。全米NPO学会も、また日本NPO学会も例外ではない。資金調達や大会運営の戦略性に感心したが、同時に学会運営の難しさを垣間見たように思った。

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