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公益法人法制定から10年 ~新旧制度にみる15兆円のギャップ~

2018年10月08日

1. 新公益法人法の成立

現行の公益法人法が施行されてから10年になる。僅か10年の歴史だが、公益法人自体の歴史は古く、明治29年に遡る。同年に編纂された民法典おいて、既に公益法人法(民法34条)が存在していたのである。だが、民法34条は、その制定以来100年以上にわたり一度も改正がなされなかったことから、制度に綻びが生じていたことは容易に想像できる。

公益法人制度の改革の必要性は、長年にわたって議論されてきたが、なかなか実現に至らなかった。ようやく本格化したのは、森内閣から小泉内閣の時代においてである。特に、小泉内閣は「官から民へ」というキャッチフレーズを掲げ、行政府部門の縮小と同時に民間活用によって政府が担ってきた業務を民間に移すための諸制度を制定していった。公益法人制度改革もそうした流れにのることによって、ようやく重い腰を上げることになった。

公益法人制度改革の議論には、実に多様な関係者が関わっていた。公益法人の当事者は無論だが、霞が関にとっても重要で、所轄庁の内閣府のみならず、経産省、財務省など各府省が関わった。旧公益法人制度において、公益法人の認定は各府省の裁量に任せられていたからだ。また、当時、公益法人の経済規模は20兆円と言われており、制度改革によって日本の経済社会に大きなインパクトをもたらすと考えられていた。

2. 新旧制度下にみる大きなギャップ

2-1 現行制度の現状

2006年に公益法人法が施行されたことによって、これまで2.5万団体あった旧制度下の公益法人(財団法人および社団法人)は5年間の移行期の間に、新制度下で公益社団法人/公益財団法人になるか、一般社団法人/一般財団なるか、あるいは解散することのいずれかを選択することが義務付けられた。同時に新たに公益法人をめざす団体も本制度下で認定されることが義務付けられた。こうしたトランジションの時期を経て10年たった現在、本制度も定着してきたといってよいだろう。

内閣府のデータに基づけば、平成30年9月28日現在、公益法人の概況は次のようになっている。

・公益法人数は9,493法人で、内、公益財団は5,341、公益社団は4,152

・活動分野は、地域社会への発展(35.0%)、児童等健全育成(20.8%)、高齢者福祉(17.8%)

・事業費費用総額は、経済規模を表すものと思われるが、その規模は4.6兆円である。ちなみに、事業費規模別の分布をみると「1千万円~5千万円」、「1億円~5億円」の法人が多い。

出典:平成29年「公益法人の概況及び公益認定委員会の活動報告」(概要)p7

これらのデータを見た時に、公益法人制度改革前のデータとのギャップの大きさに驚きを覚えざるを得なかった。法人数、経済規模ともに大きく縮小していたからだ。

2-2 旧制度のデータからみえた質的・量的な特徴

旧公益法人制度下の公益法人の現状を量的、質的に把握すべく、本格的な調査が実施されたことがある。元統計数理研究所所長で、世界的な統計学者であった林知己夫氏が実施したものである。筆者は、氏のもとで補助をする好機に恵まれたが、調査票の原票を自ら徹底的に洗い出す、林氏の執念に目を見張った。1994年~1997年に実施された調査結果に基づけば次の通りである。

・公益法人数は2,5212、内、財団は13,079、社団は12,133である。

・また、出資者や事務局長の前職などから行政補完型と民間イニシャティブ型の法人を分析したところ、行政補完型が28%、民間イニシャティブ型が72%であることがわかった。

・また、設立年の推移と団体の性質にも特徴があることがわかってきた。明治、大正、昭和20~40年代以前は、民間人が設立した団体が多く、分野や規模も多様である。ところが、昭和50年代から、急速に行政補完型が増えていた。

・経済規模は、総額約20兆円である。しかし、規模別にみると極端に偏りがわることがわかってきた。収入100億円未満の団体数は全体の98.8%、100億円以上の団体は全体の1.2%である。しかし、収入に占める割合をみると、100億円以上の団体が、収入全体の61%あまりを占めていることがわかったのだ。(ちなみに、100億円以上の団体とは、船舶振興会、埠頭公社、トラック協会などの業界団体、年金住宅ローン協会、電気保安協会、鉄道弘済会などである。)

 

出典:林知己夫編著(1997)『現在日本の非営利法人』笹川平和財団 p32

3. 経済規模のギャップとその行方 ~15兆円の行方~

新旧制度下のデータには、複数の点でギャップがあるが、最も目を惹くのは経済規模であろう。旧制度下の公益法人の経済規模は20兆円だが、現制度のもとでは4.6兆円である。

20兆円と4.6兆円の差異はどこから生じたものなのか。考えられるのは、公益法人数の大幅減少に伴うものだ。新制度施行前には公益法人が2.5万団体あったが、現在は1万弱でで、公益法人に移行しなかった団体は1.5万だえる。だが、この1.5万団体が15兆円もの収入を獲得できていたのだろうか。

公益法人に移行しなかった法人は、一般社団法人/一般財団法人、あるいは解散を選択することになる。前者の場合、公益目的支出計画を策定し、公益目的のために保有していた財産を一定額以下になるまで公益活動のために支出することが義務付けられる。また、後者の解散を選択すれば、その資産は公的機関か公益活動に従事する団体に移譲することが求められる。一体、総額でどのくらいの規模の資金が支出され、譲渡されているのか。そして、それが公益的な成果を生んでいるのだろうか。

公益法人制度(新制度)が施行されてから10年。まずは新旧移行に伴い生じた経済規模のギャップとその行方を明らかにすべきであろう。

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