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参院選 9政党のマニフェスト評価と候補者アンケート結果

2013年07月18日

1. 言論NPOによるマニフェスト評価と政権与党の実績評価
 言論NPOによるマニフェスト(政権公約)評価結果がようやく公表された。私は言論NPOの理事をつとめているが、私も評価者として参加しているが、多くの人々の参加によって成り立っているのがこの評価だ。
 言論NPOは、現政権の実績評価と政党が選挙時に掲げたマニフェストの評価の双方を同時期に実施し続けている数少ない団体である。ちなみに、安倍政権の実績評価は毎日新聞との共同で実施し、6月26日の朝刊で発表された。
 参院選2013のマニフェスト評価については、自民党、公明党、民主党、日本維新の会、共産党、みんなの党、社民党、生活の党、みどりの風の9政党について、財政政策、経済政策、社会保障、環境・エネルギー、農業、教育、復興、外交・安全保障、政治改革・行政改革・公務員改革、地方、市民社会、憲法改正の12政策分野について評価を行った。
 また、全候補者に対してアンケート調査を行い、そのすべての結果を回答拒否も含めて選挙区ごとに公開している。

2. 評価基準と評価者 
 政権与党の実績評価、マニフェスト評価のいずれも、統一された評価基準のもとに実施される。評価者は、各政策分野の専門家で、日本でもよく知られているシンクタンクの研究員、大学教員などがボランティアで参加し、先の評価基準のもとで評価を行う。
 マニフェスト評価基準は、形式要件と実質要件の2カテゴリーがあり、形式要件には、目的の明確性、達成時期、財源の裏付けなどの5つの基準が、実質要件には、政策課題抽出の妥当性、課題解決の妥当性、実効性の3つの基準が設けられている。評価結果は点数で評されるが、その理由を基準に基づき論理的に説明することが求められる。当該分野の専門家であっても、評価の論理が理解できていないと、適正な評価ができず、言論NPOの編集担当から何度もダメだし出されることもある。

3. 参院選2013 マニフェスト評価結果にみる課題 
 では今回の評価結果はどのようなものだったのか。まず、ここでは個別政策ではなく、各政党のマニフェストの総合評価結果とその傾向について述べるが、結果は以下のとおりだ。
 自民党29点、公明党21点、民主党16点、みんなの党21点、日本維新の会14点、社民党13点、共産党8点、生活の党8点、みどりの党6点であった(100点満点)。これらは、前述の12政策分野の評点の平均値である。
 念のために再掲するが、これらは100点満点での得点である。この点数は最近のマニフェスト評価の中でも最も低い。なぜ、ここまで低くなったのか。その理由は大きく2つに分けて考えてみることができる。第1の理由は与党側にある。自民、公明の2政党は、重要な政策課題についてその答えを明確に記しておらず、先送りの格好になっている。増税、社会保障などがその典型例だ。仮に、ここで与党が大勝し、長期政権化すれば、こうした重要課題について有権者は、自ら選択することができず、与党に一任することになってしまうだろう。
 第2の理由は野党側にある。野党側の政党の公約は、与党に対する批判は多く記されているものの対案が出されていない。野党であることに鑑みれば、与党に対して批判をすることは重要な役割であるが、対案としての政策が示されていなければ、有権者は選択できない。

 マニフェストという言葉は2000年頃から注目を集め、流行語大賞となった。また、マニフェスト評価が目指すものは、本来、政権公約を有権者と候補者、有権者と政党との約束として位置づけることで、政治と有権者の間に緊張感をもたらし、政治と有権者の質を向上させることであった。英国にその起源があると言われているが、有権者との約束であるからには「目的、達成時期、工程、財源」が示されることが必要とされる。しかし、今回の参院選の各政党のマニフェストをみると、先祖返りしており、スローガン的な公約が多く、約束としての形をなしているものはごくわずかだ。これでは、有権者は判断できない。

4. 候補者アンケート結果 
 では、候補者アンケートの結果はどうか。参院選2013の候補者は433名。325名から回答を得た。実に75%の回答率である。興味深いのは、回答者の91%が公約が重要であると回答しているが、候補者の意見が政党の公約と必ずしも一致していない点である。自民、公明の公約は増税について明言を避けているが、候補者アンケートでは、増税が必要であるとの回答が意外と多い。財政再建についても現状に大きな不安を覚えてる候補者は少なくない。ちなみに、自らの政党の公約について納得していると回答したのは70%である。なんと、30%は納得していないことになる。こうした状況は政党のガバナンスの問題にも通じるものである。ちなみに、自民で「納得している」と回答したのは62.8%、民主党が61.0%で、他党に比較して最も納得度が低いのがこの2党である。

5. 私たちはどうすべきか
 私にとって、この10年、言論NPOのマニフェスト評価への参加は恒例行事となっていたが、明らかに変わったと感じることがある。それは、新聞報道が政局報道から、政策報道にその軸を移したことである。だが、肝心の政党のマニフェストについてはプラスの印象を抱くことは稀だった。さらに、この4年ほどは、憤りを感じることが増えてきた。総じてマニフェスト(政権公約)の劣化傾向がみられるからだ。マニフェストの劣化は、有権者と政治との間に適正な緊張感を築けていないことの証だ。換言すれば、政治家にとって、有権者は怖い存在ではないということだ。ある政治家が「少しでも難しいことを言えば、落選してしまう。だから有権者の前では、簡単なことしか言わない」と述べたのを今でも鮮明に覚えている。有権者の知的レベルが低いと言わんばかりだ。こうした状況下で、棄権者が増加すれば、ますます政治側に緊張感はなくなってゆく。
 これでは、有権者と政治の間には負の弛緩スパイラルが生じ、やがて、政治の質が劣化するだけではなく、有権者も思考停止に陥ってしまう。ではどうすればよいのか。
 この負のスパイラルを断ち切るためには2つのことしかないだろう。第1に、有権者はその権利を放棄しないこと。第2に、有権者は政策を判断する力をつけ、発言することである。

 言論NPOのマニフェスト評価は、有権者の立ち位置で評価を行い、たとえわずかでも、有権者の判断材料となるものを提供したいとう想いのとに続けられてきた。私自身、この評価に参加することによって、府省や行政の評価だけでは見えないものや、政策評価制度の問題がより鮮明にわかるようになってきた。何よりも、選挙に対してより当事者意識を抱くようになった。

 できるだけ多くの方々に、選挙週間の間だけでも、少しの時間をとって、政党のマニフェストと、そしてこのマニフェスト評価結果を読んでいただきたい。そして、投票権を行使していただきたい。
マニフェスト評価書のURLはこちらから。
http://www.genron-npo.net/

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