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大学評価は国際ビジネスになる

2014年06月11日

1.海外からのオブザーバーが絶えない英国大学評価者研修 
一昨日から、英国大学質保証機構(QAA)が主催する、大学評価者向け研修にオブザーブ参加している。3日間にわたる研修は、16セッションから構成され、ワークショップ形式で実施されてゆく。途中、かわされる質疑応答も流石にインテリジェントで面白い。
 それにしても、1講義が最大でも60分、殆どが30分きざみで行われるので、かなりスピーディーな印象だ。大学評価に参加して25年というベテラン参加者に、大学の講義もこんなに短いのか、冗談交じりに尋ねてみた。すると、決してそのようなことはなく、2-3時間、半日を費やす講義やゼミがふつうだそうだ。
 「大学の先生は、長時間の講義だと集中できないですか?」とジョークを交えて、尋ねてみたら、「そうかも」と彼女は笑って答えていた。

 しかし、この研修、コンフィデンシャルな場面もあり、情報管理についてのセッションもあるほどだ。したがって、オブザーブ参加者の私は、大学関係者のテーブルにつかず、スタッフのテーブルについて、観察させてもらっている。
 スタッフに、私のような海外からのオブザーバー参加は他にも来るのか尋ねてみた。すると、アルメニア、中近東、中国など毎回のようにオブザーブ参加があるという。英国の大学評価システムは、教育、研究を含め、最も体系立てて作られているように見える。また、大学ランキングで最も引用され、下村大臣が高等教育政策目標として掲げたランキングも、タイムズ・ハイヤー・エジュケーションであり、これも英国の新聞社によるものだ(ちなみに、QAAはこことの関係は一切ないとのこと。)
 私が所属する大学評価・学位授与機構が、米国ではなく、英国のQAAに範を求めようとしたのも、こうした理由からだと思われる。ちなみに、英国の大学を所管しているのは、文部科学省ではなく、経済産業省である。流石に、この点には共感できない。

2.海外展開を見越して創設されたQAAエンタープライズ
 QAAは独立した非営利組織であるが、政府は大学財政機関とのパイプも太く、社会的影響力は大きい。そのQAAが、最近、QAAエンタープライズという会社を創設したのだ。その目的は、QAAのノウハウを海外に提供するためのコンサルテーションや海外での研修の実施をすることで、営利企業として活動している。海外からのオブザーバーが絶えないと述べたが、国際展開の可能性が大いにあると判断した証だろう。

 QAAのスタッフに「学位授与権のレベル分けをしているように、評価者も1級、2級というようにレベル分けをして、更新性にすれば、ビジネスになるのでは?」と尋ねたところ、まんざらではない表情をうかべて「そうだよね」と答えていた。そのようなアイディアはすでに議論されているのかもしれない。

 QAAの研修事業がこのように国際展開してゆけば、QAA方式を身に着けた大学や評価者が世界に広がってゆくことになる。換言すれば、知らず知らずのうちに、それがデファクト・スタンダードになる可能性さえあるのだ。

 欧州委員会は、欧州圏内の大学において、一定の質を担保し、流動性を促すことを目的にした政策(ボローニャ・プロセス)を打ち出している。また、エラスムス・ムンドゥスという欧州高等教育を他国、他地域に展開する政策も打ち出している。それは、大学における欧州スタンダードを世界に広げようとする動きとも取れる。こうした展開をトップダウンで進めることも大事だが、QAAのようにボトムアップで展開すれば、じわじわと効いてくるように思え、こちらの方が実効性があるかもしれない。なぜならば、各国の大学マーケットが評価しているからだ。

 こうした国際動向を踏まえた上で、日本の大学評価、いや、質保証についてどう戦略を打つかは喫緊の課題である。

 

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