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休眠預金法 ~預金者もNPOも機が熟していない~

2016年12月04日

1. シン・ゴジラを2度も観た理由
 この夏、映画シン・ゴジラを2度も観た。気になることがあったからだ。それは、市民社会の描き方だ。ツイッターで発信する不特定多数。ゴジラ保護を要求する環境保護団体。国会前でデモをする人々。避難所で身を寄せ合う人々などだ。ちなみに、ボランティアやNPOは登場していない。テーマ設定が官僚や政治家に焦点をあてたものとはいえ、あまりにも脆弱な市民社会像で情けなくなった。だが、それが大方の見方かもしれないと思うのは、最近、企業やメディア関係者と話して同様のことを感じるからだ。
 他方、最近のNPO関係者の自画像は異なる。ソーシャル・インパクト、インパクト評価に象徴されるように、NPOが市民社会の中心となって社会の仕組みや人々の行動様式を大きく変えるようなビックな議論が盛んだ。どうもNPOと世間の捉え方にギャップがあるようだ。
 なぜ、ギャップが生じているのか。2つ挙げたい。ひとつは、NPOの実力である。この数年、NPOの自己評価書を審査しているが、自ら取り組む課題や目的、計画を描けていないケースが多い。インパクトや評価以前の基礎的なところに問題があるのだ。
 もうひとつは、NPOと社会のつながり方だ。法人データに基づけば、寄付を集めていない団体は全体の5割、ボランティアがいない団体は4割を上回っている。寄付やボランティアは資金源や人的資源であるが、同時に社会貢献を希望する人々の参加の受け皿という大事な役割を持っている。それを閉ざしてしまっては、市民との繋がりを薄くしてしまう。

2. 大量の資金が流れ込むことの危険性
 総じて運営面において脆弱なところが少なくなく、なおかつ社会との繋がりが薄い中において、大量の資金が一時に入ると2つの問題を引き起こす可能性を孕んでいる。ひとつは資金を適正に使えない団体が少なからず発生する可能性がある。さらに、大量に投じられた資金が一時に引き上げられると団体は倒産の危機に陥る。実際にこの問題は内外で発生している。そのため「NPOやNGOを潰す最も確実な方法は大量の金を注ぎ込むことだ」と言われるほどだ。
 もうひとつは、社会的な監視やチェックの目が効き難いということである。NPOの不正についてすぐに浮かぶのは制度による監視である。しかし、その対象になった時には既に不正は発生しているのである。他方、寄付者や会員、あるいはボランティアはNPOの内部に最も近い「外の眼」として意見を述べることができる。それは、不適切な行動の予防になる。また、それだけでなく組織の成長を促すようなヒントや助言を与えることもある。
 
 震災関係や雇用創出関連で、過去に大量にNPOセクターに公的資金が注入された。その一定の実績を否定するものではないが、資金の使途の透明性や不正問題も発生している。12月2日に可決された休眠預金法によって、それらを大きく上回る多額の資金が、特定分野のNPOに投入されることになる。だが、先に掲げた問題がある中で、果たしてそれが信頼足りうるものとして機能するのだろうか。しかも今回は公的資金ではなく、個人の預金という私有財産を原資とするものである。
 法案可決のニュースが発表された途端に、多数の書き込みがなされていたがいずれも否定的なものばかりだった。また、このニュースで初めてこの法案を知ったという人も少なくないようだ。預金者側もNPO側も機が熟していないままでの可決だったと思う。

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