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子どもの貧困を学ぶ ~テレビの中の他人事から、自分事へ~

2018年03月19日

3月14日、第5回エクセレントNPO大賞受賞のLearning for Allの李代表、広報担当の石神氏を講師に招き勉強会を行った。

エクセレントNPO大賞とは、独自に開発した評価基準に基づき優れた非営利組織を選出し、新聞で特集記事として紹介し、社会に見える化をすることを目的とした賞である。第5回は、学生が主体となって、経済的に恵まれない子供たちの学習支援を行うLearning for Allが大賞を受賞した。

勉強会の参加者は、エクセレントNPO大賞協賛企業の方々、後援団体、ボランティアとして応援してくれた若手官僚、同賞の運営委員である。また、協賛企業の一つである住友商事本社の会議室をお借りしたこともあり、同社の社員たちも参加した。充実した講義と時間枠では収まらないほどの質疑応答で大変充実したものとなった。

1. 子供の貧困が生成される社会構造から語られた講義

講義は57枚のスライドを用いて90分間、たっぷりと行われた。まず、李代表の自己紹介から始まった。彼は尼崎市の大型団地の出身で、経済的に恵まれない多くの友達を見てきたという。後に、東京大学教育学部に進学したが、在学中にLearning for All(以下、LAF)を立ち上げた。

そして、本題に入るが、まず語られたのは、日本における子供の貧困の現状であった。子どもの貧困率は13.7%で、7人に1人が貧困に苦しんでいる。特に、ひとり親世帯の場合、その5割が貧困にある。また、虐待数も多く、それは子供たちの精神面のみならず肉体的な成長に大きく影響する(ネグレクトされた子供の脳の写真が示されたが、同年齢のそれに比し、3分の2程度の大きさしかないことに、参加者たちはショックを受けていた。)

こうした子供たちの学力は低く、進学も困難となる。それは、将来的な就職や所得獲得にも影響し、結果、貧困の連鎖を背負うことになる。学校や政府の取り組みについても説明されたが、それだけでは問題に対応しきれていないことも説明された。

そして、李代表は、子どもの貧困は、国家財政や生産力に影響すること、何よりも子供の権利が剥奪されていると訴えた。

次に、LAFの活動が紹介された。活動は大きく2つで構成される。ひとつは「学習支援事業」、もうひとつが「子どもの家事業」である。「学習支援事業」は、大学生がボランティア教師となって、経済的に困難な子どもたちの学習指導を行うもので、質の高い教育指導を行うことで定評がある。李代表は「中学校3年の春までに来てくれれば、必ず、高校に進学させることができる」と述べているが、進学率は非常に高い。学生ボランティアの教師が、これだけの成果を上げることができる背景には、徹底した研修とアフタケアがある。ボランティア志願者の学生は50時間の研修を受けることが義務付けられる。学習指導が始まると、指導した時間とほぼ同時間がアフタケアに充当され、先輩やLAFのスタッフによるカウンセリングが行われる。

学習支援事業によって、延べ5000人の子どもたちが指導を受け、1500人の大学生がボランティアとして参加した。その様子をみると、LAFは子供たちの育成のみならず、大学生の成長の後押しをしており、2つの人材育成を手掛けているようにみえた。

「子どもの家事業」は、貧困に窮する小学生を中心に、午後2時から9時まで預かり、学習指導や遊び、そして夕食の提供を行っている。現場の担当者によれば、「子ども食堂に来れる子どもは、まだ良いほう。本当に困窮している場合、子ども食堂に来ることもできない」という。そこで、自治体やソーシャルワーカーと協力し、家庭を訪ね、親を説得して、子どもたちを「子どもの家」に連れてきている。講義では、白米しか食べたことがなく味覚が発達できていないため給食を食べることのできない子供、歯磨きの仕方を知らず、歯磨き粉を飲んでしまう子どもの事例が紹介された。本事業はスタート間もないが、細かにデータを取りながら進捗管理していることから、今後の展開に向けて貴重なデータが提供されることになるだろう。

2.質疑応答セッション ~遠い出来事から自分事へ~

90分の講義後、質疑応答のセッションが始まった。最初の質問は、「貧困率が7人に1人が貧困ということだが、そうした子供たちは周囲にいない。どこにいるのか」というものだった。参加者の多くは、比較的恵まれた環境に住んでいるために子供の貧困と接する機会がないのだろう。後に、「私は足立区に住んでいるので、実感があります」と述べた参加者がいたが、こうした質疑からも経済的な地域差を窺うことができる。

次の質問は、学生のモチベーションに関するものだった。困難にある子どもたちの学習指導、さらには子供の家事業のいずれも、非常に難しい仕事だ。これをボランティアの学生がなぜ、続けることができるのか。李代表は、「活動の途中で見えてくる、子どもたちの小さな成長のひとつひとつが喜びとなり、モチベーションとなっている」と答えた。

「LAFの活動だけでは、149万人の子供たちを救うことができないとすると、どのようなシステムや制度的な処方が必要であるのか」という質問もあった。李代表は、学校、ソーシャルワーカー、児童館など、複数の公的機関が縦割りの弊害を超えて、協力するような“地域包括ケア”のような仕組みが必要であると答えた。また、現在は、制度上、教室の中に入って活動することができない。しかし、ここでの教育内容を変える必要があることを指摘し、特区制度のようなものを活用して、挑戦してみたいと答えた。

後半になると、どんどん、質問の手が上がったが、「大学生のボランティアが中心のようだが、私たちのようなシニアも参加できることはないのか」という質問が出された。この質問は複数が思ったようで、後に、私も同様に思ったと連絡があった。子どもの貧困が、遠いテレビの中の問題から、自分事になっているように感じられた瞬間だった。

3. 更なる交流へ

勉強会後、懇親会が行われたが、本音も交え、活発に議論が行われていた。ここでも、企業や地域の人々の参加の可能性を尋ねる意見が出されていたようだ。こうした議論の先には、施設や制度にとどまらず、子どもを地域社会で守るという考え方に発展するように見えた。た、早々に、企業や政府関係者は、LAF見学の日程を決めていた。また、複数の企業が、社内説明会の打診をしていた。

エクセレントNPOが目指すのは、優れた活動をめざして頑張る非営利組織に、様々な支援が集まる。その積み重ねによって、市民と非営利活動との間に好循環が生まれることである。勉強会から、ほんの小さな芽生えが見えたような気がした。

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