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東京-北京フォーラムのボランティアへ ~地域主義、東京五輪、市民性~

2014年09月30日

1. 言論NPO、チャイナ・ディリー主催『東京-北京フォーラム」
2014年10月29日夕方、東京-北京フォーラム10周年パーティーが開催された。東京-北京フォーラムは、言論NPOと中国日報社(チャイナ・ディリー社)の共催で、本音でぶつかりながら議論することをモットーに東京と北京で交互に開催されているフォーラムである。ここで、毎年実施されている日中共同世論調査は名物行事となったが、互いの国の国民が相手国をどうみているのかを世代や階層別に探るもので、両国民の本音や誤解が顕著に表れて面白い。10年の実績が評価されたのか、内外で脚光を浴び、国内ではNHKのニュースや新聞各紙が紹介し、海外でも中国は無論のこと、CNN、BBCやファイナンシャルタイムズなど主要なメディアが紹介するようになった。

ところで、29日のパーティーには特別な意味があった。10月29日は日中国国交正常化42周年にあたる日だったからだ。だが、残念なことに両国政府は記念行事を行わなかった。それだけ両国の関係に深い溝があることが示唆されている。だが、こうした状況だからこそパーティーを開くべきだと主催者は考えた。興味深いことに、岸田外務大臣、石破地方創生担当大臣、升添知事があいさつに訪れた。中国側からも、程永華駐日全権大使や蔡名照新聞弁公室主任、朱霊中国日報社社長などが次々と熱い挨拶をした。どの挨拶にも共通していたのは、互いに互いの国が重要であると十分に認識していることだった。それゆえに、現状について、もどかしさのようなものが伝わってきた。

2. フォーラムをささえた70人のボランティアへのメッセージ
ところで、本フォーラムは、貧乏所帯のNPOが実施していることもあり、殆どがボランティアによって支えられている。今回、学生ボランティアが70人ほど集まったが、40人ほどは、中国からの留学生だ。ちなみに、ボランティアは学生だけではない。本フォーラムを実行委員として支えている宮本元中国大使、明石元国連事務次長、武藤東京五輪事務局長らも、朝からかいがいしく事務局スタッフと一緒になって働いている。宮本大使は、外務省の現役時代に身に着けたものがうずくのか、パーティーを仕切ってきめ細やかに気配りをしていた。

 午後8時、ようやくパーティーが終わった。学生ボランティアたちに飲み物が配られ(食事はまったく残っていなかったので、ひもじい思いをさせてしまった)、明石氏、武藤氏からお礼の言葉述べられた。明石氏は、ナショナリズムに対しては否定的だが、地域を愛するローカリズムは大いに推奨したいと述べた。ナショナリズムはとかく抽象論、観念論が行き過ぎてしまう。他方で、ローカリズムはそこで暮らす人々の姿や地域の課題がみえる。こうした具体的な課題に取り組むことで、地に足のついた考え方や行動力が身につくことが大切なのだろう。
 武藤氏は、オリンピックを取り上げながら、ボランティアの大切さを訴えた。東京五輪では8万人のボランティアを募集する予定だという。そして、東京五輪の成功の可否はまさにボランティアにかかっていると力説されていた。その直前に、武藤氏とオリンピックとスポーツの商業主義化について話をしていたので、そのメッセージの背景には様々な思いがあることが伝わってきた。

 二人のメッセージを聞いて、帰ろうとした時、言論NPOの工藤代表から呼び止められ、閉めの挨拶をするように言われた。二人の重鎮のあとで、しかも何も準備していない。とっさに浮かんだのは、明石氏、武藤氏のメッセージからヒントをもらうことだった。そして、次のような挨拶をさせていただいた。

 「武藤さんが、東京五輪の成功の鍵はボランティアが握っているというのは、決して大げさなことではないと思います。どれだけ巨額のお金を投じても、どれだけ有名なトップスターの選手を招いても、それだけでは五輪は成功しないでしょう。五輪は、そのイベントを支え、選手や外国人観光客におもてなしの心で接し、聴衆として、優れたパフォーマンスのみならず、フェアプレイに感動する、そのような市民がいてこそ成立するものではないでしょうか。まさに祭典だといわれる所以です。そして、だからこそ、五輪では、開催国の民度が問われるのだと思います。
 そのようなボランティア精神あふれる市民をどう育んでいったらよいのでしょうか。まさに、ボランティア活動に参加することだと思います。ドラッカーは、NPOでボランティア活動をすることは「市民性創造」の重要な機会であると何度も述べていました。それは、地域の課題に身を置き、それを実感し、解決に向けて共に働く。そして、それが実った時には大きな充実感を味わう。それが、市民性、つまりシチズンシップを育むことだと述べているのです。
 日中国交正常化という記念すべき日に、両国政府が記念行事をしない。このような厳しい状況下で、小さなNPOが、両国の大臣を呼び、彼らは互いにお祝いの言葉を交わしたのです。そんな記念すべき舞台をボランティアの皆さんが支えたのです。すごい達成感ではないですか。ここでボランティアとして頑張った皆さんのシチズンシップは確実にバージョンアップしたはずです。
 私は大学の仕事をしていますが、こうしたシチズンシップの育成は、教室の中よりも、ボランティアの実践の場の方がはるかに効果的であると思っていました。皆さんの上気した顔をみると、その考えは正しかったのだと思います。どうか、自信をもって、さらに前に進んでください。大変、お疲れ様でした。」

 挨拶を終えると、明石さんと武藤さんが「いい話を聞かせてもらったよ」とお褒めの言葉をくださった。私も小さな達成感を覚えたような気がした。

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