ブログ

民主主義とポピュリズム ~4カ国の対話から~

2016年11月22日

2016年11月16日、言論NPO15周年記念フォーラムが都内で開催された。
テーマは民主主義で、5時間におよぶセッションは全て民主主義に関する議論で行われた。
http://www.genron-npo.net/15.html

dsc_0351

第一部は、オープニングフォーラム「民主主義の将来と言論NPOの役割」 として、代表の工藤泰志とNEWS ZERO」キャスターの村尾信尚氏の対談形式で進められた。村尾氏は、トランプ現象などのトピックを取り入れながら、工藤氏に質問を当時、言論NPOが「民主主義のインフラを構築する」ことを目途に続けてきた、マニフェスト評価や中国、韓国との共同世論調査や対話をわかりやすく紹介していった。

第二部は「リベラルデモクラシーの行方: 揺れる世界秩序と台頭するポピュリズム」をテーマに、米国、カナダ、ドイツ、インドネシアの有識者によって明快かつ知性豊かな議論が展開された。
 登壇者は、米国から、ジェラルド・カーチス氏(コロンビア大学教授)、デビッド・ホーリー(元ロサンジェルスタイムス特派員)カナダからはキース・クラウス氏(ジュネーブ高等国際・開発問題研究所教授)、ドイツからはフォルカー・シュタンツェル氏(元駐日本ドイツ大使)、インドネシアからはハッサン・ウィラユダ氏(元インドネシア外務大臣)で、それぞれが外交、経済、ジャーナリズム、政治の視点から意見を述べた。

 議論は、トランプ現象を皮切りにはじめられたが、すぐに引き込まれるように深い議論に入っていった。特に興味深かったのは「なぜ、知識層は、ポピュリズム現象の中で無力化してしまったのか」という問いに対するジェラルド・カーチス教授(米国)とフォルカー・シュタンツェル元ドイツ大使(ドイツ)の意見だった。「知識層の無力化」とは、人々の不安や恐怖を煽り、他者の批判や実現不可能な言動に対して、知識層がそれに対抗する意見を表明せず、抵抗勢力になりえなかったことを意味する。

 ジェラルド・カーチス氏は、次のように述べている。
すなわち、米国の民主党はトランプ現象について、「運が悪かった、トランプと同じようなことを言っておけばよかった」のだと思い、民主主義の危機とは捉えていないと思う。こうした中、ジャーナリズムは、大統領選予測に失敗し、なぜ、予測できなかったのかと自身に疑問を投じるようになっている。他方、エリート層は、この問題がエリート層に対する、米国大衆の不満や批判であり、自身に向けられた批判であるということに気づいていない。

 フォルカー・シュタンツェル氏は、欧州、特にドイツに焦点を当てながら次のように述べた。すなわち、今起きている問題について、エリート層や知識層は自覚が薄い。その理由は第二次世界大戦後に遡る。終戦後、ドイツは米国のマーシャルファンドによる支援に助けられた。そのため、ドイツ国民にとって、民主主義以外の選択肢はなく、またそのことを疑わなかった。エリート層は民主主義を制度の問題として捉え、その深い意味を自問してこなかったのではないか。今こそ、この現象を直視し、反省すべきである。

 二人の意見を聞きながら、ドラッカーがナチスの分析のことが思い出された。ドラッカーは、なぜドイツ国民が全体主義を選択したのかを問いかけ分析の著を記している。中下所得層については、失業による物理的、精神的な不安が大きく、ナチスが掲げた安定策にすがってしまったのだと。そして、知識層について「無関心の罪」を指摘している。つまり、ナチスが掲げる政策や言動に疑問も持ちながらも、自らに火の粉がかかることを避けるために、沈黙してしまったことの罪である。セッション後に、シュタンツェル氏と言葉を交わす機会があったが、あの時と同じ罪を犯してはならない、その教訓をどういかすべきかと話していた。

ページTOPへ▲