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笑顔無き日中首脳会談 ~それは真に国民感情を表しているのか~

2014年11月11日

1.笑顔無き日中首脳会談
3年ぶりの日中首脳会談は大きな注目を浴びたが、そこで映し出された映像に違和感を覚えた者は少なくなかっただろう。それは、”笑顔無き会談”として報じられたが、習主席が、安倍首相の目を見ず、固い表情を固持している様子を表したものだ。一国の首相が、なぜ、あのような態度をとったのか。そこには様々な外交上の思惑があるのだろうが、国民感情への配慮は重要な要因であったはずだ。

2.10年目を迎えた言論NPOの日中共同世論調査
 習主席の先の態度を理解するのに役立つであろう興味深いデータがある。私が理事をつとめる言論NPOは、中国日報社と10年間にわたり日中共同世論調査を実施してきたが、そこでは、両国の国民が相手国に対してどのような感情や印象を抱いているのかが赤裸々に示されている。経年変化もわかるようになり、最近では、NHKや主要4大紙、CNN、BBC、ファイナンシャルタイムズなどが、その結果をニュースとして取り上げている。
 2014年度は、日本では訪問留置回収法によって1,000件の、それとは別に行う有識者へのアンケート調査で628人から回答を得た。中国では、世論調査として1,539名から回答を、有識者アンケートとして、大学生・教員813名から回答を得た。

 本調査の質問の中に「政治家の誰を知っているか」という質問があるが、その回答結果を見て、なるほどと思った。日本人が知っている中国の政治家は、断トツで毛沢東、次いで、胡錦濤、温家宝、江沢民で、習氏は6番目であった。他方、中国人が知っている日本の政治家では、断トツで安倍晋三、次いで、小泉純一郎となっており、3位以下と大きく開きがある。中国人が認知している日本人の政治家とは、ともに靖国参拝問題に関連しており、ネガティブな意味で強い印象を持っていることがわかる。習首相は、こうした中国国民の感情に配慮して、あのような態度を取ったのではないだろうか。

3.真に対立感情だけなのだろうか
 だが、日中共同世論調査結果は、両国民が単純な対立感情だけを抱いていないことを示している。
 日本人の対中印象は、「良くない」が9割を超えて、過去最悪となっている。他方、中国人の対日印象は8割がマイナスの印象ではあるが、昨年よりも若干改善している。そして、そのような印象をもった理由についても尋ねているが、日本人が「良くない印象を持つ理由」として、「国際的ルールと異なる行動をする」(55.1%)「資源、エネルギー、食糧の確保の行動が自己中心的にみえる」(52.8%)となっている。中国人は「日本が尖閣諸島を国有化したこと」(59.6%)、「一部政治家の言動が不適切」(31.3%)となり、「一部政治家の言動」については昨年に比べ増加している。
 他方で、良い印象の理由として、日本人は、留学生の交流など民間交流によって中国人を身近に感じていることを挙げ、中国人は、日本の製品の品質の高さや日本人のまじめさや親切さなど国民性に対する高い評価が良い印象に寄与している。

 では、日中両国民は互いの国に対する国民感情が悪いという現状をどう考えているのか。日本では8割、中国では7割の人々が、「望ましくなく心配している」「問題であり、改善する必要がある」と解答し、現状を問題視しているのである。つまり、感情的には負の感情を抱きながらも、この状態は良くないと冷静に捉える眼を持った国民が両国に相当数、存在しているのである。

 さらに、日中関係についても尋ねている。日中関係の現状について「悪い」と認識する日本人は83.4%、中国人は67.2%となっている。いずれの国民の相当数が日中関係が悪いと認識している。しかし、興味深いのは、中国人の回答で、昨年、「悪い」と回答した中国人は90.3%であったことから、昨年と比較し、かなり改善していることがわかる。
 そして、日中関係が悪いことの理由についても尋ねているが、両国とも最大の懸念材料は領土問題であるとしている(日本58.6%、中国64.8%)。今年の新設の設問「政府間に信頼感がないこと」「国民間に信頼関係がないこと」への回答をあわせると日本では6割、中国では4割となっている。

 以上のデータは調査結果の一部ではあるが、日中両国民の感情を単純な対立構造で理解することは不適切であることがわかる。また、日本は対中感情を悪化させているのに対して、中国は対日感情を若干改善させており、両国間の感情の変化にも違いがあることもわかる。そして、最も注目したいのは、両国民の相当数が、こうした関係が良くなく、改善すべきだと感じていおり、しかも、領土問題のみならず、政府間、国民間の信頼関係がないことが阻害要因であると認識しているのだ。

4.国民感情は政府やメディアよりも冷静
 先のデータに鑑みれば、首脳の態度は国民感情のある側面に呼応しているものの、決して、国民の感情や認識の全容に呼応することにはならないと言えるだろう。政府やメディアが考えるよりも、国民はより冷静な視点を持っているのではないか。
 だが、政治家の言動や政府間の関係が、国民感情の悪化の大きな要因のひとつになっていることには違いない。それが、誤った世論認識に基づく言動であるのなら、その罪は重い。我々は(特にメディアは)、一部の極端な言動に目が奪われがちであるが、一度、より大きな視点で国民感情というものを捉えなおす必要がないだろうか。

言論NPO・中国日報社「第10回日中共同世論調査結果」
http://www.genron-npo.net/world/genre/tokyobeijing/10-7.html

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