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英国大学評価者研修便り

2014年06月11日

昨日から、ロンドンから英国鉄道で1時間のところにある、ウォーリック大学のゲストハウスに滞在している。英国大学質保証機構が開催する評価者研修にオブザーブ参加するためだ。

1.日本がモデルにした英国の大学評価システム
 日本の大学評価は、2001年に認証評価制度が法的に定められ、2004年の国立大学の法人化とともに国立大学の中期目標・中期計画の達成度評価も義務化された。認証評価制度は、一定の基準を満たしていることを確認するのに対して、国立大学法人評価は目標の達成状況を確認しており、評価の種類が異なる。
 国際的には、認証評価がより一般的であろう。そして、その先駆的な役割を果たしているのが、英国の評価制度だ。大学評価・学位授与機構の評価システムも英国質保証機構を範にしているところが大きい。

2.学生も参加する評価者研修
 今回参加した研修は、3日間の研修で全国の大学から集まった26名が参加している。いずれも、近々、評価者として実際に大学評価を行う人々だ。このうち、7人が大学生で、学部から博士課程まで多様だ。彼らは自ら志願した者、学生組合から学生代表として選ばれた者だ。残りは教員と元教員で、いずれもマネジメントやシニアの顔ぶれだ。
 日本では、大学評価に学生が参加することは認められていないが、欧州では一般的になってきた。考えてみれば、学生は大学にとって最大のステイクホルダーであり、消費者であるのだから、評価に参加することは理にかなっている。日本の場合、大学紛争の傷跡があり、学生組合のない大学が多いために学生代表の選抜が難しく、学生の参加は難しいと言われている。だが、真の理由は、学生をどこまで信用しているか否かの違いではないだろうか。

 また、日本でも教員が評価者になるが、その研修にはかなりの配慮が求められる。そこには、教員は教えることは好んでも、教えられることは好まないという、ある種の先入観もあるように思える。この点は、万国共通だと聞いたことがある.そこで、英国大学質保証機構のスタッフや参加者に尋ねたところ、そうだと深くうなずいていた。やはりそうなのか。
 ただ、今回の研修をみる限り、学生も教員も熱心に講義に耳を傾け、意見を述べていた。おそらく、双方型の講義で、考えて意見を述べる場面が多いことや、学生がそばにいることが、やる気を駆り立てているのかもしれない。

3.学位、学習機会、大学情報に関する全英共通基準(クオリティー・コード)
本日、最も印象深かったのは、クオリティー・コードの講義だった。これは2011年12月に、A:学位に関する最低限の基準、B:学生の学習機会のクオリティ、C:高等教育の情報について、あらゆる大学に共通のものとして設置された基準のことだ。
 たとえば、Bの学生の学習機会については、入学やカリキュラムの設計など11のカテゴリーについて、おのおのに求められる要件と指標が設定されている。ただ、指標とは言っても、定性的でやや抽象的なものにとどまっている。おそらく、すべての大学に共通するものとなるとこの位、抽象度が高いものにしなければ、おさまらなかったのだろう。

 そして、今、日本で注目を集めるとすれば、Aの学位や資格に関する基準だろう。大学入学資格から博士まで8つのレベルに分けられ、そのレベルに到達するための要件が説明されている。また、欧州共通の学位レベルの定義が設定されているが、それとの対応関係も示されている。欧州圏内の大学間を学生が移動することを意識しているからだ。
 昨今、STAP論文問題が契機になって、大学が授与した学位の信頼性の問題が浮上しているが(それ以前より、学位の信頼性の問題はあった)、こうした基準の設置は日本でも必須になる可能性がある。

 このクオリティー・コードを作成した、英国質保証機構のスタッフに尋ねてみた。こうした共通基準を作成すれば、全英の大学を比較できることになるのではないかと。答えは明確で、YESであった。ただ、興味深いのは、研修の最初に大学の多様性についてしっかり議論する時間があることである。多様性を理解した上で、比較をするということだ。
 日本では、大学関係者の抵抗が予想され、大学を比較することは難しい。したがって、国立大学法人評価では、おのおのの大学の使命とステイクホルダーの期待に照らし合わせて、その達成状況をみることになっている。つまり、大学によって期待される成果や目標が異なるので、評価結果を単純に比較できないことになる。しかし、これでは評価結果の有用性が低く、大学にとっても戦略策定の材料としては今一つだ。

 明日からは、このコードと事例を使って、実践演習を行う。大学の多様性と独立性を尊重しながら、どうこのコードを解釈し適用してゆくのか、興味深いところだ。

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