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評価の国際的潮流~定量化と評価力向上~

2015年04月18日

1. 国際評価年”2015”
 2015年が国際評価年であることを知る人はあまり多くないだろう。国際評価年とは、国連開発計画(UNDP)が定めたミレニアム開発目標に従事するNGOが中心となり定めたもので、これを受けて、2014年には国単位での評価能力構築を推進することが国連総会決議が承認された。2015年は、ミレニアム開発目標の最終年であり、説明責任を果たすために評価への要請が高まることを見込んでの決定だろう。
 しかしこれを国連やNGOに特有のものと捉えるのはもったいないと思う。何故ならば、教育、貧困、福祉、医療等の非営利事業の評価方法は、国境を越えるのみならず、政府、民間の区別なく、同じような方法が用いられているからだ。このことを発見したのは1998年に全米評価学会に出席した時だった。当時、NGOやNPOの評価を研究テーマとしていたことから、関連セッションに出席した。しかし、驚いたことに会場には、NGOや財団の他、米国厚労省、世銀、IMFなどの政府関係者が入り混じっていたからだ。セッションの内容を聞いて合点がいった。政府であろうとNGOであろうと、それが取り組む社会課題や事業方法は、規模こそ異なりこそすれ、類似のものであり、したがって評価方法も共通していたのだ。
 後にそのことを私自身が痛感することになった。NPO評価のために評価技術を習得したのだが、その結果、NGOやNPOからというよりも、政府関係からの依頼が急増していったからだ。

2. 調査結果から読み取れる国際的潮流のポイント
 評価が本格的に実務や研究の対象となったのは1960年代で、米国を皮切りに始まった。そのブームに火をつけたのはケネディ大統領で「政策に科学を」と、投じた予算の効果を科学的に検証すべく、政策評価を始めたのだ。以来、ほぼ10年単位で評価方法のトレンドのようなものが生まれている。また、国際機関はキャッチフレーズを命名し、そうしたムーブメントを助長してきた。そして、その影響は、国際機関から補助金を受け取るNGOなど各種団体にも及んでくる。
 
 では、国際評価年と定められた今年、どのようなトレンドを見出すことができるのか。そこで、国際NGOに詳しい今田克司氏(CSOネットワーク代表理事)に情報収集をお願いすることにした。以前より、NGOに対して、説明責任や評価のプレッシャーが高まっており、援助効果を定量的に説明することが強く求められていると聞いていたが、少しずつ変化があることがわかってきた。以下、3点ほど挙げておきたい。
 第1に受託者の評価能力強化への流れだ。2000年前後から、投じた資金に対して得られた効果を明確にすべしという、ヴァリュー・フォー・マネー(Value for Money)の流れが、国際機関や英国をはじめとした各国政府の間で強くなった。これに呼応するように大手NGOの間で評価力を強化するようになっていったが、最近では、開発事業に従事する大小様々なNGOの評価能力を向上すべきという気運が高まっているという。国際評価年や国連総会での決定はそうしたことを背景としている。

 第2に、説明責任としての評価から、マネジメント力向上や学びとしての評価への変化の兆しだ。先に述べたヴァリュー・フォー・マネーは、説明責任としての評価の典型である。投じた資金に対する効果の度合いを明確にし、芳しくなければバッサリと切るという総括型の評価だ。
 しかし、こうした総括型評価から変化がみられるという。評価結果を事業や組織運営の改善に生かすことを目的に教訓を導くことに主眼を置いた評価の兆しが見えるというのだ。このタイプの評価は、よりタイムリーにマネジメントにフィードバックが求められることも多く、総括型評価のように事業実施後ではなく、事業実施中から日常的にデータを取ることがある。KPI(Key Performance Indicator)を定め測定してゆく方法が、こうしたマネジメント改善目的に用いられることも増えている。

 第3に定量化の波だ。より定量的に評価を行うべしという気運は、開発援助のみならず、日本国内の各種評価でも言われて久しいが、なかなか実現できないのが実態だ。しかし、国際機関やNGOの間では、ソーシャルメディアの普及によって受益者など事業関連のデータがとりやすくなったこと、また、リアルタイムでそれらを集積しやすくなったことで定量的な測定・分析作業が一段と進む兆しが見えてきた。
 また、定量化によって、事業の効果を可視化しやすく、一般のみならず、ドナーや為政者への説明がしやすくなるという点も見逃してはならない。ただし、定量化を急ぐあまり、事業や対象者の効果測定の難しさをねぐって、安易に数値化したり金銭換算すると、誇大広告になったり、不要な誤解を招くリスクも忘れてはならないだろう。

3. 国境、セクターを超えて学ぶべき
 前述のように、非営利部門の評価方法は、分野や主体の違いに左右されず、共通する点が多い。なぜならば、評価の本質は「科学」であるからだ。評価に、客観性や再現性(誰が評価を行っても同じ結果)が求められるゆえんである。

 翻って、日本の評価はどうか。定量化に対するアレルギー、「権威による評価」信仰、すなわち特定の職位や専門に就いた経験がないと評価ができないという言葉は、行政府や教育関係者の間から未だに聞こえてくる。
 確かに、利益という共通のものさしを持たず、福祉や教育など人々の内感に依存する類の事業の測定の難しさはある。しかし、国際的な潮流を見る限り、そうした難しさを克服すべく、試行錯誤を続けることで、漸進的な進歩があることがわかる。日本でも評価に従事する者が増えているが、国際評価年に象徴される国際的潮流から、国境、セクターを超えて学ぶべき点がある。
 
海外非営利組織事業の動向 情報収集報告書はこちらからダウンロードできます。
海外非営利組織事業評価の動向情報収集20150313提出R

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