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各界から厳しく指摘された大学行政

2018年09月09日

1. 大学改革問題 ~各界の厳しい提言~

大学改革の必要性が指摘されて久しいが、今年は特に顕著で、2018年5月から6月にかけて、政治、行政、経済界の各界から厳しい提言が発表されている。なぜ、提言が集中的になされたのだろうか。おそらく、その契機は、 “高等教育の無償化”であると考える。昨年9月に安倍首相が、「消費税増税の使途を組み替え、2兆円規模の財源を教育無償化する」と打ち出し、それを具現化した「新しい経済政策パッケージ」が、12月に閣議決定された。他方、定員割れや経営難の大学の増加、教育の質の低下など種々の問題が指摘されているが、この状態で、無償化を導入すれば、経営難の大学の延命に利用されるなど、さらなる悪化を招きかねない。

こうした中、政治、行政、経済界の各界が大学改革問題について提言を行った。いずれの提言も、産業構造の急速な変化や超少子高齢化に鑑み、人材育成を担う大学への期待から始まる。だが、期待が大きいだけに、現状に対する批判は厳しい。大学の国際競争力の低下、私立大学の4割が定員割れなど、昨今の大学の状況に大きな懸念が示されている。
これまでも大学改革に関する議論は久しく行われてきた。だが、今回の提言の特徴は、大学行政に焦点が当たっていることである。ここでいう大学行政とは、大学セクターの再編および公的資金の配分とその根拠となる評価にかかる行政機能のことをさす。本論では、各界の大学行政に関わる提言に焦点を当て、その意味を考える。

2. 各界の提言について
ここでは、大学行政について指摘をした、自民党、経済財政諮問会議、財務省、そして経済団体連合会の提言について見てゆく。

2-1 自由民主党 「財政再建に関する特命委員会報告」(2018年5月24日)
「財政再建に関する特命委員会」はその名の通り、財政再建にかかる検討を行うために設置された委員会で、岸田文雄政調会長が委員長を務める 。当報告は、社会保障など諸政策について包括的に提言を行っているが、教育政策の項目の中で次のように述べている。

「大学評価」
・複数併存・重複する大学評価制度の関係を整理し、評価者が大学関係者による「身内の評価」になっている現状を改革し、厳格な第三者評価を実施する。
・定量的な情報を開示し、相対評価を導入する。

「公的資金の配分」
・国立大学の運営交付金については、学内配分や使途の「見える化」をはかり、戦略的な配分割合の増加を進める。
・私学助成については、メリハリをつけ、定員割れや赤字経営の大学への助成停止も含め、減額の強化を図る。

2-2 内閣府 経済財政諮問会議 「経済財政運営と改革の基本方針2018」(2018年6月15日)
「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太方針2018)は、大学改革について例年以上に、紙面を割いて指針を述べている。

「大学界の再編・統合」
・大学再編・統合のために、国立大学法人制度などの法改正を行うこと。
・国公私立大学の枠を超えた大学連携を可能とする「大学連携推進法人(仮称)」「地域連携プラットフォーム(仮称)の創設を提案する。

「大学評価」
・教育・研究の質的改善の向けて、複数併存・重複する大学評価制度の整理、効率化を図ること。
・評価は客観的な指標に基づく、厳格な第三者による相対的かつメリハリのある評価とするために改善を図ること。

「公的資金の配分」
・国立大学の運営費交付金については、戦略的配分を増やすべきである。
・戦略的配分の根拠となるKPIについては1800以上もあることから、お手盛りで、大学間の比較ができないため、これらを標準化すべきである。
・私学助成金についてはメリハリをつけ、赤字境内の大学等への助成停止も含めた減額の強化をすること。

2-3 財務省 財政制度等審議会「新たな財政健全化計画等に関する建議」(2018年5月23日)
財務省は、大学の情報開示、大学評価について、公的資金配分のいずれについても十分に機能しているとは言い難いとして、具体例を挙げて問題を指摘した上で、改革案を示している。

「大学評価」
・国立大学法人評価については、複数併存・重複する評価制度について整理・統合を図る。
・大学関係者による「身内の評価」を見直し、厳格な第三者評価を実施すべきである。
・相対評価を行い、評価結果にメリハリをつけること。

「公的資金の配分」
・運営費交付金については、基幹経費が原則前年踏襲で編成されているが、戦略的配分を増やすべきである。
・戦略的配分の根拠となる「3つの重点分野」の評価については十分に機能していないため改善を図る。
・私学助成金については学生数が減少しているにもかかわらず微増している。また私学助成金は一般補助と特別補助の2つで構成されているが、特別補助が大幅に増加している。
・私学助成金については教育の質や効果に応じてメリハリをつけて配分し、定員割れ、赤字経営の大学については減額を強化する。また、経営困難な大学について改善が見られない場合は補助対象から外すべきである。

2-4 経済団体連合会 「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」(2018年6月19日) 

経団連は6月19日に「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」をまとめ、林芳正文部科学大臣に手交している。過去の提言は、大学教育や大学ガバナンスに関する指摘が主たるものだったが、今回の提言は大学行政にも焦点が当てられた。冒頭で、「護送船団方式」の大学行政を見直す必要があると述べ、大学界の再編・統合、評価、公的資金の配分について、述べている。

「大学界の再編・統合」
・大学界の再編・統合が必要であれば、具体的には国立大学法人制度を改正し、一法人で複数大学を傘下に置くことができるようにすること。
・私立大学については学部・学科の譲渡を促進する。
・国公私立大学をグループ化し一体的に運営して経営基盤を強化すること。

「大学評価」
・評価については、卒業生の出口管理を厳格化すること、教育効果の評価について測定方法を開発し改善を図ること。
・民間委員を含んだ独立の第三者評価による相対評価を実施すること。

「公的資金の配分」
・国立大学の運営費交付金については、配分の根拠となる評価制度が2制度併存していることから、ひとつに統一すること。
・運営費交付金の配分については競争的配分を増やすこと。その根拠となる「3つの重点分野」の評価指標を整理すること。
・私立大学については、経営悪化状態にある大学については退出を促す。
・私学助成金のうち、一般補助金は教育成果に基づき配分する。特別補助金については効果のないものは廃止する。

3. 各界の提言にみる共通点
大学行政の改革にかかる自民党、経済財政諮問会議、財務省、経団連による4つの提言について見てきたが、共通する指摘が複数あることがわかる。

第1に、大学界の再編・統合にかかる提言である。自民党と財務省は言及していないが、経済財政諮問会議および経団連は、法改正や具体的な組織名称まで挙げて、再編・統合の必要性を説いている。この提言に先立ち、名古屋大学が指定公立大学の指定を受け、岐阜大学との統合を試みているが、こうした試みが本提言に影響を与えていると思われる。また、経済界は、ホールディングス化やM&Aによって再編・統合を繰り返してきた経験に鑑み、大学界の現状を打破するためには、再編・統合が必要であると考えていることが窺える。

第2に、大学評価である。「身内の評価」という言葉が、自民、財務、経団連で用いられている。経済財政諮問会議はこの言葉こそ用いていないが「厳格な第三者評価」と挙げている。この表現から、大学関係者中心の評価の信頼性について疑問が抱かれていることがわかる。
また、「複数の評価制度の併存、重複」の改善は、全ての提言で指摘されている。現在、法的に義務付けられた大学評価制度は複数併存しており、しかもその内容は類似、重複している。例えば、国立大学法人の場合、7年に1度、認証評価を受審することが義務付けられる。また国立大学法人評価について、毎年(経営の評価)と6年に1回の評価(教育研究の評価)が義務付けられている。さらに、2年ほど前から導入された「3つの重点分野」による評価が毎年実施されており、加えて、1998年より義務づけられた自己点検・評価もある。大学関係者のみならず、第三者がみても改善が必要な状態にあることは自明だ。

第3に、公的資金の配分方法に関するものである。私立大学については微増傾向にある私学助成金についてメリハリをつけ、経営難の大学については助成対象から外すなど、退出を示唆している。

国立大学については、改変の余地は大きい。提言の中で、度々、「戦略的配分」という言葉が登場する。戦略的配分とは、従来の運営費交付金のように前年踏襲ではなく、成果や評価結果に応じて傾斜配分をすることをさしている。
「3つの重点分野」評価は、戦略的配分のための評価制度のひとつである。文科省は、3年ほど前に「地域のニーズに応える人材育成・研究を推進」「分野毎の優れた教育研究拠点やネットワークの形成を推進」「世界トップ大学と伍して卓越した教育研究を推進」の3分野を設定した。大学はいずれのグループに属するかを自ら選択した上で、おのおの戦略とKPIを設定する。このKPIによる評価結果に基づき、運営費交付金の基幹経費の内1%(約100億円)を傾斜的に配分する。配分総額は4年間で400億円程度と想定されているが、配分額をもっと増強すべきであるというのが、各界からの提言である。

さらに問題を複雑にしているのは、3分野の評価とは別の評価による傾斜配分が現存することだ。それは、2003年に国立大学が法人化された時に定められたもので、6年に1度実施する教育・研究評価結果を元に、運営費交付金の基幹経費の内30億円程度が傾斜的に配分されている。運営費交付金の傾斜配分をめぐって2制度が併存している状況は、大学の負担を増やすだけでなく、傾斜配分によるメリハリを相殺してしまう可能性もあり、速やかに整理・統合が必要だと指摘されているのである。

以上、大学行政にかかる各界の提言をレビューしたが、その内容は具体的かつ明確であり、しかも類似、共通している。換言すれば、大学行政の課題は明らかに顕著で、誰もが疑問を抱く問題だということではないか。
大学改革の必要性が指摘されて久しいが、その多くは大学組織に対するもので、教育の質保証やガバナンス改革の強化などが中心であった。そして、文部科学省は大学行政の問題について、十分に説明してこなかった。それを突くように、各界からストレートに問題を指摘された格好だ。

大学行政の改革なくして、大学組織の改革は進まない。それどころか、大学行政の問題が、大学の改革努力を妨げてしまうこともありえる。遅すぎる感も否めないが、大学と大学行政の双方をセットにした改革が急がれる。そのためには、もはや大学関係者だけではなく、外からの働きかけや協力が必要とされているのではないか。

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