11月21日、新政権から経済対策すなわち補正予算が発表された。資料を読んだ瞬間、その内容の広さと規模の大きさに、一瞬、当初予算書かと錯覚を起こすほどだった。
その額は17.7兆円で、減税分も含むと21.3兆円である。興味深いことに、真っ先に反応したのはマーケットだった。10年国債の金利が1.8%台まで上昇し、17年半振りの高水準となった。これに伴い、為替(円安)が進むことも懸念された。
そもそも補正予算に対して、ここまでマーケットが反応することは大変珍しい。背景にあるのは、日本の財政状況がさらに悪化することの懸念であり、マーケットの信認を揺るがす可能性が示唆されている。
では、補正予算はどのように執行されているのか。ここでは、会計検査の視点から今期補正予算について考えてみたい。
1. 補正予算の規模の推移
補正予算額は17.7兆円(減税分を含むと21.3兆円)であり、この額はリーマンショック対策(14兆円)、東日本大震災対策(15.1兆円)よりも大きい。また、リーマンショック対策や災害対策の場合、翌年度には以前の水準に戻るのが常套であった。
その傾向が変化したのは新型コロナ感染症対策が始まってからだ。令和元年に3兆円だった補正予算が、令和2年度にはコロナ対策のために73兆円の補正予算が組まれ、その後、徐々に減少したものの元の水準に戻らないと批判されてきた。ところが、令和6年度から再びその額が増え、今年は東日本大震災対策を上回る額が提示された。
補正予算を定めるのは財政法第29条であるが、そこには経費の不足を補うか、緊要となった支出等に必要な予算の追加を行う場合に限り、補正予算を措置することができると記されている。この原則と照らし合わせて考えても、今期の補正予算額の妥当性は慎重に議論すべきであろう。
2. 家計支援向けの物価対策 ~コロナ対策の検査結果が示唆するもの~
経済対策の中には「物価高に直面する家計の直接的な負担軽減額(今後1年程度)」が示されている。この内容を見ると、新型コロナ感染症対策とほぼ同じあるいは類似した対策がけっこうあることが分かる。しかも、会計検査院から問題を指摘されているものも目立つ。
たとえば、重点支援地方交付金(2.0兆円)である。「家計支援枠」(1世帯1万円)例としてLPガスや水道料金の減免が示されている。コロナ対策でも生活に影響を受けた人々の支援として水道料金の減免を講じた自治体が相当数あったが、警察や役所などの公的機関の水道料金も減免されており、それが適切であるのかと会計検査院から問題提起されている。
「食料品の物価高騰に対する特別加算」(1世帯3千円)例として、プレミアム商品券やお米券が例示されている。プレミアム商品券は過去にも何度か会計検査院から指摘されている。コロナ対策の際は、自治体と商工会との間で清算条項が定められておらず、商工会に交付金が滞留されたままになっていた。
「電気・ガス補助金」(0.5兆円)は、従来のおよそ2倍の規模で各家庭の電気料金の負担軽減をする。だが、令和4年、5年度に行われた電気・ガス補助金は今回提案の半分の規模にもかかわらず総予算額は3.7兆円であった。0.5兆円の予算で、どうやって2倍の規模の補助をするのだろうか。
また、昨年、会計検査院から、本補助金の事務局機能の委託を巡って、多重下請けが指摘されている。この問題が解消されているのかどうか、しっかりと確認する必要がある。
「物価対応子育て応援手当」(子ども一人2万円)を実際に配布するのは市区町村になる。コロナ感染症対策では10種類の給付金が毎回条件を変えて配られてきた。条件が変わるたびに、自治体はシステムを改修しなければならないが、その費用は自治体の予算で賄わねばならない。児童手当のデータを活用できる場合は口座番号が紐づいているのでプッシュ型の給付ができるが、そうでない場合には、住民基本台帳から該当者を探し、申請書類を郵送し、さらに受け取った申請書類の審査をするなどの作業を行わねばならない。いずれも臨時の作業なので、通常業務に加えての作業になる。自治体の疲弊が心配である。
3. 補正予算の制度的課題
そして、制度的な課題は深刻である。日本の決算制度上、補正予算のみを取り出して、何に幾ら使ったのかを明らかにすることはできないからだ。現行制度では、当初予算など他の財源を全てあわせた執行額しか、決算書には示されない。たとえ補正予算額が18兆円でも、70兆円でも明らかにならない。霞が関ではこれを「溶け込む」と表現してきた。
そのような中、会計検査院は、補正予算の執行状況を初めて明らかにした。おそらく戦後初めてのことである。それは、各省庁が義務づけられていないにもかかわらず、自発的に事業単位で管理簿をつけていることが分かったからだ。そして、各省庁の協力を得て、管理簿の情報を提出してもらい、補正予算の執行状況を明らかにした。
4. 繰越率の高さと財源(国債)が示唆するもの
(1)繰越率4割
検査の結果、補正予算(令和4年度経済対策)が相当な割合で繰り越されていることが明らかになった。補正予算が追加された予算項目のうち4割が、補正予算と同額以上を翌年度に繰り越していることが分かったのだ。補正予算額以上を繰り越しているということは、補正予算のみならず、当初予算など他の財源も使い切れずに翌年に繰り越していることを意味する。ならば、なぜ補正予算を組む必要があったのかと素朴な疑問が沸いてくる。
また、補正予算全額を翌年に繰り越した事業が34件あったがその額は約1.5兆円である。さらに、繰り越された補正予算が翌年どのように使われているのかを確認したところ、執行率は5割を切っていた。そして残りの5割は使わずに国に返還している。
(2)財源の75%は国債
「国に返還するのだから問題ないだろう」という意見もある。だが、問題は補正予算の財源である。平成28年度から令和5年度の補正予算の財源を調べたところ、約200兆円のうち75%は国債であることがわかった。国債を発行すれば、利払い費が発生する。若干大胆な言い方をお許しいただければ「借金をしたのに使わなかった。だが、利息は払わねばならない」状況を招いていないだろうか。
5. 新政権への期待 ~制度見直しと補正予算の効率化~
高い繰越率と財源問題、そしてコロナ対策以降の中央政府、地方自治体の疲弊に鑑みれば、適正規模をふまえた補正予算を組むことが不可欠である。だが、現行の決算制度では、補正予算の執行状況を把握できないので、適正規模を検討すのための根拠データを得られない。
やはり補正予算の「見える化」が必要だ。そのためには、補正予算をどの事業にいくら使ったのかが分かるように、事業別かつ財源別の管理簿をシステム化し、決算書と連動させるための制度改革が求められる。
長年、そのような作業は会計処理の現場に負荷がかかるので出来ないと言われてきた。だが実際には、現場は管理簿をつけているのだから実現できるのではないか。
新政権は「責任ある積極財政」を掲げ、債務残高対GDP比を重要指標として掲げている。この指標はマーケットの信認を得るためにも重要である。だが、注意しなければならないのは、インフレの影響で、実態経済(賃金や消費)の改善を伴わずとも、指標値が改善されることがある。指標だけが改善し、国民の生活が改善されない事態は、政権がめざすところではないだろう。
やはり債務残高そのものの改善が必要である。そして、財源の75%が国債で構成される補正予算を効率化することは、債務残高の改善に直接的に寄与するだろう。そのためにも補正予算の「見える化」が不可欠である。