本日(2026年3月19日)より、緊急的激変緩和措置(ガソリン補助金事業)が施行された。ガソリン補助金事業は、2021年より新型コロナ感染症対策として始められ、感染症収束後は物価高騰対策として引き継がれ、断続的に実施されてきた。そして、ガソリンの暫定税率廃止(2025年12月31日)をもって、この補助金事業もフェイドアウトすると思われていた。
ところが、イラン戦争による石油価格高騰に対応するため、再びガソリン補助金事業が実施されることになった。早い決断だ。
気になるのは、2023年に発表されたガソリン補助金事業(予算総額6兆円)に関する会計検査報告で、重要な問題が指摘されている点だ。そこで、会計検査で指摘された問題ついて説明するが、前編では価格抑制効果、後編では実施体制と2つに分けて述べる。
1. ガソリン補助金事業とは何か
「ガソリン補助金の仕組み」
まず抑えておきたいのは、ガソリン補助金はガソリンスタンド(小売事業者)ではなく、仕入れ事業者(ENEOSなどの卸売事業者)に配布されるという点だ。そして最終的に小売価格を決めるのはガソリンスタンドである。この点は、今回(2026年3月)のガソリン補助金も同様である。
では、どのように補助金は配布されたのか。ガソリン補助金を所管するのは資源エネルギー庁である。具体的な業務は、基金設置法人と事務局が担った。
基金設置法人とは経済産業省から補助金の交付を受け、これを積み立てて基金を造り、管理する組織のことだ。そして、基金を取り崩して事務局に補助金を送金する。
事務局は卸売業者からの申請書を審査し、補助金を卸売業者に配布する。卸売業者は、補助金を受けて小売業者にガソリンを販売するが、週ごとに補助金の交付額を算定した上で、月単位で翌月に事務局に請求する。
ちなみに、2021年当時、基金設置法人は一般社団法人全国石油協会が、事務局は株式会社博報堂が担った。
「毎週変動する補助金額」
補助金額は毎週変動する。補助金額が、毎週の原油価格とガソリン販売量に連動しているからだ。
レギュラーガソリンの全国平均小売価格が、国の基準額を超えた時点で初めて交付される。そして、全国の平均小売価格と原油価格の変動分を勘案した予測価格を算定し、国が定めた基準額と予測価格の差額を算出する。この差額と販売量をもとに、補助金額を算出するのだ。卸売事業者は、この計算を毎週行い、月単位で補助金を申請していた。
2021年当時、卸売事業者数は30社であったが、今回は33社の社名が資源エネルギー庁のHPで公開されている。前回の全く同じ申請手続きかどうかは分からないが、今回も補助金額が変動する仕組みを取っているので、類似の算定手続きが必要になるはずだ。手続き上の負担軽減が欲しいところだ。
2. 価格は下がるのか ~投じた国費よりも価格抑制効果が低い〜
ガソリン補助金事業の目的はガソリン価格の高騰を抑制することである。だが、2021年から実施されたガソリン補助金の価格抑制効果について疑義が投じられている。
財務省が、2022年3月から7月までのガソリン販売実績量等を基にガソリン補助金の価格抑制効果を機械的に推計したところ、抑制額が補助金の交付額を約110億円下回っていた。この発表は、財政制度審議会(財務大臣の諮問機関)やメディアで取り上げられ、国会でも議員から大臣に質問が投じられた。
これを受けて、資源エネルギー庁は、ガソリンスタンドを対象にしたガソリン価格調査の強化策を打ち出した。ガソリン価格調査は、補助金額を算定するための情報源となるが、同時に、調査の過程でガソリンスタンド事業者に、できるだけ価格を下げるように協力をお願いすることにも狙いがあったようだ。しかし、これが後編で説明する事業実施体制の問題に繋がってゆく。
会計検査院も2つの方法で価格抑制効果について調べている。ひとつは財務省と同じ方法で、投じた国費と価格抑制額の比較である。会計検査院は2022年4月から2023年3月までの1年間でみたが、価格抑制額が、投じた国費を204億円下回っていた。財務省とは調査期間が異なるので単純に比較することはできないが、抑制効果の問題は解消されていないようだった。
もうひとつの方法は、卸売価格と小売価格の差をみることである。会計検査院は卸売価格の動向を調べ「支給単価が卸売価格に反映されていない事態は見受けられなかった」と述べている。
他方で、卸売価格の抑制が、小売価格に反映されないこともありえる。そこで、両者を比較することにした。図1は分析結果を示したものだが、700か所のガソリンスタンドのうち価格差が拡大していのが7割を占めていることが分かった。補助金が卸売価格の抑制に反映されても、小売価格にはなかなか反映されていない状況がみてとれる。

図1 卸売価格と小売価格の差の事業実施前後の推移(出典:会計検査院)
ガソリン補助金は、小売事業者ではなく卸売事業者に配布される。だが、小売価格を決めるのはガソリンスタンドであるので、卸売価格が安くなったからといって、そのまま小売価格が安くなるとは限らない。卸事業者からのガソリン購入費用だけでなく、人件費や電気・水道などの諸経費を勘案した上で、小売価格を決めるからだ。
ならば、補助金をガソリンスタンドに配布すれば良いという意見もあるだろう。だが、全国に28000件以上あるガソリンスタンドに配布するためには膨大なヒト、時間、金をなどのコストと手間を要する。また、市場価格に政府が直接的に介入することは適当ではないだろう。今後、価格がどうなってゆくのか、その動向に注目したい。
後編では、多重下請け問題や60億円以上の国費を投じた調査が使われていなかったことなど、実施体制面の問題について述べる。