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将来世代への先送り ~送る側の議論にとどまっていないか~

2017年02月09日

1. 2020年のプライマリー・バランス目標はどこにいったのか 

 1月25日、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」を経済財政諮問会議に提出した。2015年から2025年にわたる中長期の経済シナリオだが、2通りの想定で試算されている。ひとつは、10年間にわたる経済成長率が実質2%、名目3%を前提とした「経済再生ケース」である。もうひとつは、経済成長率が実質1%弱、名目1%中半を前提とした「ベースラインケース」である。
「経済再生ケース」では、2020年のPBバランスは8.3兆円の赤字で、2025年に1.6兆円の黒字に転じることになる。ところが、「ベースラインケース」では、2020年は11.3兆円の赤字で、2025年には15.4兆円の赤字で、10年間でPBが黒字に転じることはないという試算だ。どちらがリアルかとえば「ベースラインケース」である。将来の人口動態に伴う潜在成長率に鑑みれば「経済再生ケース」の各指標は、楽観的すぎると言わざるを得ない。だが、メディアが用いているのは「2020年のPBは8.3兆円の赤字」であり、経済再生ケースの試算値のほうだ。

 さらに、10年間の推計値に目を奪われて、肝心のことを見逃していることに気づいた。2020年のPB黒字化目標を掲げた政府の約束はどこに行ってしまったのか。淡々と並べられた10年間の試算値をみていると、この約束がなかったかのごとく映ってしまう。メディアは、2020年の試算値(8.3兆円の赤字)を報道するのであれば、この約束はどうなったのかと厳しく追及すべきではないか。そして、用いるべきは「経済再生ケース」ではなく、「ベースラインケース」の数字だろう。(なお、政府は、2020年の目標に変更はないと述べている。)

2. 2025年:大学4年生が30歳になった時、いくら負担するのか
 
 先日、都内の大学で講義をした。オムニバス形式の講義で、その一コマを担当したのだ。そこで、中長期にわたる人口動態と給付と負担、日本の財政状況にかかるデータを用いて説明をした。いずれもよく用いられている公開データだ。
 しかし、講義が終わると、担当の教授から「学生は脅かされたと思ったかもしれません」と言われたのだ。一瞬、この教授の反応に驚いた。こうした危機意識は多くに共有されていると思い込んでいたからだ。しかし、すぐさま、わが身を反省せざるをえなかった。私自身、この状況を評論家のように他人事として語っていたのではないだろうかと。

 そうした視点で、データを見直してみると疑問が沸いてくる。人口ピラミッドの推移、従属人口の減少、世代別にみた給付と負担、国別の国民負担率などのデータはいずれもマクロのデータである。しかし、学生たちにとってみれば、彼らが知りたいのは、自分が30歳になった時、あるいは40歳になった時に、年収はどの程度で、いくら税金を払い、保険料を負担しなければならないのかという、等身大のデータではないだろうか。

「次世代への先送り」という言葉は、財政問題の常套句となっている。しかし、それは先に送っている側の議論にとどまっていたのではないか。2025年には、大学4年生が30歳になる。先のような等身大のデータを作成し、彼らの負担がどの程度のものになるのか、さらには、本当に負担できる額なのかについて、厳しい未来の現実を直視して議論すべきである。

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