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頭でっかちのボランティア

2013年05月19日

「ボランティア初体験は?」と問われてみると、定かでないと
ころがある。しかし、挫折ばかりで、決して格好の良くないボラ
ンティアだったことだけは確かである。
 最も印象深い挫折の記憶は大学3年生の時の経験で、学内掲示
板の募集をみて、自閉症の子供の機能回復訓練に参加したことで
ある。
 キリスト教系の大学のため倫理学が必修であった(必修でなけ
れば、受講していなかっただろう)。当時私は、少し長い病気を
したあとで、いつになく講義の内容に感受性が反応した。「人は
他者によって生かされるもの、人様の役に立たねば」と観念的な
使命感が先走っていた。
 ボランティアの場所は、調布の寺のそばのアパートであった。
二人の自閉症のお子さんを抱えた母親が一室を借り、ボランティ
アを集め訓練を行っていた。いつも5~6人の大学生、高校生が
集まり、器具をつかった体操やマッサージを行っていた。
 訓練に参加してみると予想以上に重労働であった。子供たちは
訓練を嫌がり、暴れて逃げる。ボランティアは追いかけて、子供
たちをなだめながら、訓練を再開するという動作の繰り返しだっ
た。当時、体力がなかったせいもあり、次第に調布のアパートに
通うのが辛くなってきた。
 ある日、常連ボランティアの女子高校生に、どうして続けられ
るのか尋ねてみた。答えは予想外にシンプルなものだった。
 「そうだなあ。この子達のことがかわいいからなあ」
 私は彼女の答えに少なからずショックを受けたが、今でもその
時の感覚がよみがえってくる。この人には叶わないと思った。ど
のような高尚な言葉や理論よりも、彼女の言葉のほうが、よほど
説得力があると思った。あたまでっかちで、実は自分のことばか
り考えていた己の無力さを彼女の一言で悟らされた瞬間でもあっ
たのだ。
 

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