ブログ

エクセレントNPO ~未来世代の対抗文化~

2013年08月31日

「第2回エクセレントNPO大賞」の募集が始まった。毎日新聞と「エクセレントNPOをめざそう市民会議」の共催、共同通信社の後援によるものだ。私はその創設に着手したが、この活動を支える人々にはある深い思いがある。

1. 拝金主義と抑うつ傾向 ~国際比較調査より~ 
 米国の心理学者 Tim Kasser教授によれば、学生や若い成人の中で、金や名誉により強い関心を示す者はそうでない者よりも、抑うつ傾向や精神疾患を持つ傾向が強いという。他の調査では、物欲と麻薬中毒の間に相関があることを示している。また、幼児に関する調査では、孤立傾向のある子供は、独占欲が強く、他者を信用しない傾向があるが、この傾向は、ドイツ、デンマーク、英国、インド、ロシア、ルーマニア、オーストラリア、韓国など国柄の異なる地域でも同様にみられるのだという。
 また、30年前に比較すれば明らかに国民所得が向上しているにもかかわらず、人々が幸福と感じる度合は以前よりも低下傾向にあるという。

2. 未来世代に生まれつつある対抗文化
 先のデータは、金や名誉に価値を置く社会の限界や終焉を示唆するもののようにみえる。興味深いのは、新たな対抗文化の兆しが指摘されていることだ。そこには、「絆」「共感」により価値をおく若い世代に見出すことができるという(最低限の生活基盤の上のことだが)。このように述べると、若い世代は前世代よりもより善良であるように捉えられてしまうのだが、事実はより複雑だ。社会思想家のJefemy Rifkinは、彼らを「ミレニアム人」と呼んでいるが、兄弟が少ない分より過保護に育つ傾向があり、結果、ナルシズム傾向を示しているという。ネット社会の申し子である彼らは、バーチャルな世界でのつながりを作っているにもかかわらず、孤独感を感じている。だが、その反面、絆や共感を求め、社会課題の解決やコミュニティの構築にも強い関心を示している。
 また、ボランティア活動が教育に取り入れられたことも先の状況に影響しており、ミレニアム人はソーシャル・キャピタルに長けているという。

Rifkinは、古代ギリシャから現代、未来までを俯瞰しながら、先の分析を行っているが、これからは共感文明(empathic civilization)の時代になると結論づけている。

 Rifkinの論述はやや楽観的にもみえる。だが、仕事がら20代前半、10代の若者と接する機会が多い私にとっては、こうした若者が日本でも確実に増えていることを実感している。

3. 民間非営利組織(NPO)の役割と日本の状況
 こうした時代において、社会課題の解決のために活動する民間非営利組織は、人々の参加の受け皿として非常に重要な役割を果たす。そして、それがうまく機能しない社会においては、病む人が増え、社会秩序を失ってゆくと指摘したのはドラッカーである。
 では、日本はどうか。人々の参加の受け皿としてのNPOが必要だいう声が、ひとつの社会現象になった時がある。1995年の阪神・淡路大震災の直後だ。これが契機でNPO法が全会一致で制定された。
 現在、NPO法人数は4.7万。だが、5割は寄付金0円、4割はボランティアが0人の状況だ。広く多くの人々の参加の受け皿としてうまく機能しきれていないのである。

4. 政策の影響 ~下請け化とビジネス化~ 
 こうした背景には、第1にNPO経営の困難さ、第2に我が国の政策の問題がある。NPO経営は大変難しい。特に資金調達の問題は日本に限らず、あらゆる国のNPOが共通に掲げる難題である。日本ではNPOの資金問題の解決を、結果的に、公的資金に求めてきた。NPO法が制定された頃、橋本行革、小泉構造改革の方針が打ち出され、行政のスリム化が積極的に進められてきた。NPOは、歴代政権下、行政機能の安価な受け皿として政策的に使われてきたという経緯がある。
 また、日本ではベンチャービジネス促進策の失敗が指摘されて久しいが、ポスト・ベンチャー・ビジネス策として、NPOを活用したコミュニティ・ビジネスやソーシャルビジネス策が登場した。ソーシャルビジネスとは、社会課題解決にむけて体系的・継続的に取り組む活動および主体をさすものであるが、”ビジネス”という言葉のためか、収益活動・利益活動に傾斜し、代わりにボランティアや寄付を軽視する傾向が強くなってしまった。

 また、NPO法人制度を本来の社会的な目的以外で利用する主体が増え、玉石混交となっている。公的資金の不正使用などでNPO問題がメディアで取り上げられているが、こうしたスキャンダルは非営利組織の社会的信用を損ねることなる。

 これでは、新しい時代が求める役割、すなわち市民参加の受け皿としての役割を十分に果たすことができない。

5. 「エクセレントNPO」とは
 先の問題意識を背景に、研究者とNPO・NGOの実践者が集まり、5年をかけて作成したのが「エクセレントNPO」基準である。望ましい非営利組織像を議論し、そこから「市民性」「課題解決力」「組織力」の3条件を抽出し、その下で33の基準を作成した。例えば、資金を多様な主体から調達してリスクヘッジをすることを尋ねる基準や、公序良俗に反する主体、反社会的な主体からの資金をもらわないなど規律について尋ねる基準がある。

 「エクセレントNPO大賞」は、この基準を用いた自己評価の普及と、自らの質の向上に努める非営利組織を「見える化」するために作られた賞である。したがって、申請用紙はエクセレントNPO基準に基づき自己評価シートになっている。全応募団体にはささやかながら自己評価の仕方などについてフィードバックしている。そして、受賞団体(市民賞、課題解決力賞、組織力賞)は賞金に加え、紙面1面を使った特集記事で紹介されることになる。

今、非営利セクターの成功モデルが求められている。同時に、完成されていなくてもよい。きらりと光る、次世代を彷彿とさせるような団体に頑張ってもらいたい。
応募要項、申請用紙はこちらから。
http://www.excellent-npo.net/index.php/ja/

ページTOPへ▲