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加藤紘一氏の葬儀に参列して ~真の保守とは~

2016年09月15日

「知的な香りの葬儀」
 加藤紘一氏の葬儀に参列させていただいた。加藤家と自民党の合同葬儀とされ、喪主は愛子夫人、委員長は安倍晋三内閣総理大臣がつとめた。仏壇の中央には、天皇陛下からの御仏前がおかれていた。参列者は現役大臣のほか、YKKで知られた山崎拓氏、小泉潤一郎ほか、著名な政治家OBらが並んだ。
 安倍総理他の政治家、程 永華中国大使のお別れの言葉は、政治家、外交官とし手腕をふるったの加藤紘一氏の思い出でつづられた。しかし、ジェラルド・カーチス氏と愛子夫人が語った氏は、研究者、教育者としての姿だった。愛子夫人によれば、氏の遺品から、几帳面に整理された記事や論文がみつかったそうだ。加藤氏はこうした資料を分析して、日本の未来を描こうとしていたらしく、研究者としての加藤紘一を再認識したと、夫人は語った。そのためであろうか、葬儀はしめやかさや静粛さにに加え、知的な香りが漂っていた。

「加藤氏との出会い」
 私にとって、加藤紘一氏との出会いは言論NPOのイベントだった。言論NPOとは、15年前に、オピニオン誌『論争東洋経済』の編集長だった工藤泰志氏が、当事者性のある知的言論空間を構築することを使命に創設したNPOだ。詳細は省くが、工藤氏が出版社を辞めて言論NPOを立ち上げる契機を作ったのが”加藤の乱”だったのだという。以来、加藤氏は、言論NPOの節目のイベントには必ず顔を出してくださった。同NPOが主催する「東京-北京フォーラム」には毎回出席され、流暢な中国語で講演をされた。病で足が不自由になられても、決して人の手を借りずに階段を降りる姿に政治家としてのプライドを感じた。
 
 その後、私は、NPO法や市民社会の問題で何度が教えていただく機会をいただいた。当時、筆頭秘書だった五反分正彦氏も熱心に議論に参加してくださった。言論NPOとの共催で立ち上げた非営利組織評価研究会では、講義をしていただいたり、インタビューに応じていただいたが、その内容がブックレット『日本の未来と市民社会の可能性』(言論NPO、2008年)に記されている。改めて読み返してみると、そこには、リベラル派の加藤氏の真骨頂が記されていることがわかる。

「加藤氏の語った真の保守」
 加藤氏は、なぜNPOなのかという問いかけに対して、まず映画『はなれ瞽女おりん』を語り出す。「貧乏な農家に盲目の女の子が生まれる。貧しい夫婦にはとても負担になってその子を置いて夜逃げをしてしまう。すると村人たちが集まって、相談する。村のリーダーがとんとんと話すと、ある者はご飯を食べさせ、ある者は子供のお下がりをもってくる。女の子が育ってくると村人は将来のことを案ずるようになる。そこで、盲目の女性に歌や芸を身につけさせて経営をする瞽女宿、つまり就職先を探してくる。」
 映画の中の一連の出来事を、加藤氏は、「一人の視聴覚障害者に対する社会福祉政策、今で言えば、福祉事業のなかの何とか事業と行政的に言われる筋合いのものですが、それがほとんど皆の相談ごとでさっさと進んでいく。きわめてパブリックのことを、お上ではなく、人々がうまく処理していく。」と述べている。
 加藤氏がこれを語ったのは2008年だが、当時は新自由主義を基調とする政策が主流だった。加藤氏は、こうした状況について「社会に隙間ができ、ぎくしゃくするし、政府機能は縮小されてゆくので、公的な活動を積極的に担う人々にがんばってもらわねばならない。」と述べている。そして、NPO法人はそのために必要な仕組みになると考え、熱心に法人制定に尽力していた。

 さらに、本著で、加藤氏は、保守の本質ともいえる持論を展開している。「私は、山形県の鶴岡という、藤沢修平生誕の地で生まれ育ってきたのですが、私たちの保守という基盤はどういうものであったかというと、パブリックなことに貢献する人たちの集まりが実は保守なのです。よく自民党の基盤は特定郵便局だとか、建設業界とか遺族会とか言われていますが、それはここ20年くらいの話でして、本来の自民党の基盤というのは、地域社会のなかで、自分の地域の存在、または存続に責任を持つ側に立とうという人たちの集まりなのです。」
 では、パブリックに貢献する人とはどのような人なのか。加藤氏は、村の祭りを例にとり、「静かに寄付をして、まとめやく側にたって要求をしない。また、祭りの準備のためにより多くの時間をボランティアとして費やす。そして、地域社会には要求型の人もいるからこれがぶつかり合うとまとまらない。先の人々は、まとめ役に側にたって要求側に立たない。」と述べている。つまり自発的に貢献をし、自らの要求を抑えてでもまとめ役を担う人がパブリックに貢献する人だというのだ。そして、保守とはこういう人々の集団、つまり公益のために尽力する人々の集団だというのだ。

 加藤氏の論説を久しぶりに読んではっとさせられた。氏は、NPO法人制度はじめ数多の制度を作ってきたが、氏が語っているのは決して制度や仕組みの話ではないのだ。さらに、NPOなどの組織の話でもない。それは、個々人の生き方の話なのである。 

 天国の加藤氏は、きっとこうおっしゃるに違いない。「制度はつくったが、魂を入れるのは君たちだよ。われわれ日本人に馴染む、地に足のついたパブリックをつくる責任が、君たちにあるのだよ」。

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