ブログ

第12回日中共同世論調査結果~観光客が増えても悪化する国民感情~

2016年09月25日

 銀座を歩くたびに、日々増加する中国人観光客に驚いていたが、最近は普通の光景になりつつある。高級ブランド店からマツキヨまで、購買欲旺盛な中国語が飛び交っている。さすがにデパ地下は少なかったのだが、最近は、菓子売り場で姿を見かけるようになった。中国人観光客はすっかり上得意のお客様となっている。そのような中、意外な調査結果が発表された。日中両国の国民感情が悪化しているというのだ。

1. 中共同世論調査が示すもの ~悪化する国民感情~
(1)両国国民を対象にした調査
 日中共同世論調査を実施したのは、日本の「認定NPO法人言論NPO」と中国の「中国国際出版集団」である。この調査は、日中関係が最も深刻だった2005年から日中共同で毎年行われているものであり、今回で12回目にあたる。日本側の世論調査は、全国の18歳以上の男女を対象に訪問留置回収法で実施された(有効回収標本数は1000)。中国側の世論調査は10都市で、18歳以上の男女を対象に同様の方法で実施された(有効回収標本は1587)。この調査に加え、言論NPOと中国国際出版集団はそれぞれ有識者2000人にアンケート調査を行っている(http://www.genron-npo.net/world/archives/6365.html)。

(2)両国の国民感情の悪化
 調査結果のいくつかを見てみよう。日本人については、日中関係が「悪い」という回答が71.9%となり、2014年まで改善傾向であったものが悪化に転じている。中国人については、「悪い」という回答が昨年から11ポイント増加し78.2%となった。また、この1年間の日中の関係について尋ねているが「悪くなった」と回答したのは、日本人が44.8%、中国人が66.8%である。さらに「悪くなってゆく」と回答したのは、日本人は10ポイント増の34.69%、中国人は9ポイント増の50.4%となった。
 過去11回の調査では、日中の国民感情の悪化にもっとも影響をもたらしていたのは、日中首脳会談の動向だった。しかし、両国首脳会談は昨年から再開し、最近は”笑顔”も見られるようになった。それにもかかわらず、両国感情は悪化しているのである。何が両国の国民感情を悪化させているのだろうか。

(3)何から情報を得ているのか 
 まず、両国民は何から情報を得ているのか。本調査によれば、両国民とも直接的な交流は乏しく、相手国の認識は自国のメディア、特に、テレビ報道に大きく依存している。
 この1年の報道内容は、2016年5月の伊勢志摩サミット、安倍首相、習主席との会談が行われた9月のG20のほか、7月には南シナ海をめぐる国際仲裁裁判所の判決や尖閣諸島公船侵犯ニュースである。調査分析者は、両国間のテレビ報道信頼への差異はあるものの、これらの報道が世論に影響を与えていると述べている。

2. 両国民の懸念 ~歴史認識からから安全保障へ
 では、両国民は何を懸念しているのか。それは、”安全保障面での両国政府の行動を不安視する見方が、昨年よりも大きくなっている”という点である。
 中国人が日本にマイナスの印象を持つ理由として多いのが「歴史認識問題」「魚釣島(尖閣諸島)」であるが、今回は「日本が米国と連携して中国を包囲している」という回答が7ポイント増加し48.8%となっている。
 日本人が中国にマイナスの印象を持つ理由としては「尖閣諸島の周辺での領海を侵犯している」(64.6%)、「資源やエネルギー、開発などの行動が自己中心的にみえるから」(49.1%)、「国際的なルールと異なる行動をするから」(48.1%)となっている。特に、尖閣に対する回答は前年に比較し20ポイント増となっている。
 
 これまで歴史認識の問題が大きな障害となっていることが前回までの調査で明らかになっていた。今回の調査でも、歴史認識問題が日中関係の阻害要因として重視されている。だが、それよりも安全保障面での行動が両国民のより強い関心事となっていることが今回の調査から明らかになってきたのだ。

 しかし、それがナショナリズム的な感情に直結していない点は特記に値する。本調査を主催した言論NPOの工藤泰志代表は「両国の国民意識はかつてのようにナショナリスティックな対立にはなっていない」と述べている。その要因として、首脳会談や国際会議の成功、経済協力を優先したことなどがあるとする。また、両国民の7割近くが日中関係を「心配している」「改善すべきだ」と回答している。そして、関係改善策として両国民の6割が挙げたのが「領土問題」と並んで「民間レベルの交流」である。つまり、政府レベルだけはなく、民間レベルでの取り組みが重要だと6割が考えているのだ。

3. 厚みが増したがバランスを欠く民間交流
 2015年に日本を訪問した中国人は過去最高の499万3,689人に到達した。民間レベルの交流が急速にその厚みを増していることの証左だ。だが、課題はいくつもある。例えば、日中間の移動人口数のバランスを欠いている点だ。中国を訪問した日本人はその半分以下(249万7,700人)で、しかも毎年減少傾向を示している。
 本調査によれば、訪日経験のある中国人の58.8%が日本に「良い」印象を持っているが、訪日経験がない人は11.4%に留まることが明らかになっている。単純にこの結果を日本人に当てはめることはできないが、直接的な交流経験がプラスの影響をもたらすことを考えれば、日本からの訪中人数を増やしてゆくことは重要である。
 そして、ソフトな民間交流だけでなく、ハード(硬派)の交流、すなわち、このような調査を行い、国民が最も懸念している事柄(今回でいえば安全保障や歴史認識など)について、民間レベルで直接、本音で話し合う場が必要ではないか。

言論NPO・中国国際出版集団共催「東京-北京フォーラム」2016年9月27-28日 於:ホテルオークラ
(http://www.genron-npo.net/)
 
 

ページTOPへ▲