理化学研究所の笹井芳樹発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の自殺が報じられ、研究者コミュニティのみならず、多くの人々が驚き、そして落胆した。
1. 気になる小保方氏宛ての遺書報道
ただし、今回の報道については、非常に気になる点がある。それは、小保方晴子氏充ての遺書の文言が、かなり早期の段階から報道されていたことである。複数の宛先で遺言が残されたことが記されているが、その内容が具体的に報じられているのは、私が目にした限り、小保方氏宛てのものだけである。
2. WHOの勧告「自殺を予防する自殺事例報道のあり方について」(2000年)
自殺に関する報道の在り方については日本のみならず他国や国際社会において問題視されてきた。それは、遺族の人権やプライバシーの問題は無論のこと、自殺報道が次なる自殺の呼び水となってしまうことが散見されたからだ。逆に、報道を控えることによって、自殺率が大きく減少したという実例もある。
そのようなことから、WHOや各国政府は自殺報道の在り方についてガイドラインを提示している。ここでは、WHOのガイドライン(WHO PREVENTING SUICIDE A RESOURCE FOR MEDIA PROFESSIONAL http://www.who.int/mental_health/media/en/426.pdf)
から「何をすべきではないのか」のリストを抜粋する。
WHAT NOT TO DO
• Don’t publish photographs or suicide notes.
• Don’t report specific details of the method used.
• Don’t give simplistic reasons.
• Don’t glorify or sensationalize suicide.
• Don’t use religious or cultural stereotypes.
• Don’t apportion blame.
つまり、簡訳すると次のようになる。
・自殺者の写真や遺書を報道してはいけない。
・自殺の方法や詳細を報道してはいけない。
・自殺の理由を単純化して報道してはいけない。
・自殺を美化したり、センセーショナルなものとして扱ってはいけない。
・責任の追及しない
3. 今回の報道は勧告に反することばかり
WHOの勧告を読み返してみると、今回の笹井氏の報道が、それに反するものばかりであることがわかる。自殺の方法や詳細が、写真付きで報道されている。そして、前述のように遺書の一部が報道されているのだ。また、自殺の理由も憶測の段階で記している。明らかに、WHOの勧告に反する行為だ。
そして、遺書の内容を報道関係者に伝えた側にも問題があると考える。小保方氏宛ての遺書の内容を誰が伝えたのかはわからないが、報道文書の内容から、小保方氏に落ち度がないことや保身を目途にしたものではないかと思われる。
だが、遺族の許可を得ていたのだろうか。いくら小保方氏宛ての遺書とはいえ、遺族への配慮は道義上、求められることであると思う。
笹井氏の死を矮小化しないためにも、また、遺族のためにも報道と情報提供者にはより配慮ある言動を求めたい。
そして、笹井氏のご冥福をお祈りしたい。