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大学教員に社会人基礎力を教える英国の評価者研修

2014年06月12日

1.大学教員相手に議論のマナーを講義
 英国大学評価者研修の2日目は、具体的な事例を使ってのロールプレイが主なメニューだが、午前中一杯を費やして、議論の際の技術やマナーをかなり丁寧に教える。たとえば、不要に長い質問をするな、オーバーなジェスチャーは相手に威圧感を与える、相手の話をきくこと、話しかける時にはアイコンタクトを取ることなど、その内容は日本でいうところの「社会人基礎力」そのものだ。さらに、評価対象者から、より効果的に答えを引き出すための、質問例が数十個、示されている。質問の仕方まで教えるとは…
 大学教員といえば、議論のプロであり、立派な大人の見本的な存在だ。そのような人々を相手に、社会人基礎を教えて、反発を買わないのだろうか。そのような思いで、はらはらしながら見ていた。おそらく、日本であったら怒りを買いそうだが、思いのほか和やかなセッションだ。

 主催者に、なぜ、このような講義をするのか尋ねてみたが、逆に、なぜそのような質問をするのかという顔をされた。そこで、過去に、講義で指摘されたような問題を起こした評価者(大学教員)がいたのかと尋ねたところ、YESと深くうなずいていた。それも、決して少なくないようだ。
 確かに、日本でも思い当たる節がある。質問をしているのか、持論を展開しているのか,
よくわからない発言をする人をみかけることがあるが、面と向かってそれを指摘することも難しい。どこも同じような悩みがあるのだと苦笑した。
 ちなみに、食事の時に教員の評価者にそっと訪ねてみたら、「そりゃむっとするけれど、学生もいるしね」と答えてくれた。

2.日本では導入の難しそうなロールプレイ
 ロールプレイのために用意された事例は、10頁ほどにわたるもので、大学の理事、部長、講義者、事務スタッフが登場する。そして、彼らがおかれている(経営状態、教育の成果、教員の態度など)に加え、評価に対してどのような感情を持っているかなどが記されている。ちなみに、学生の評価者も参加するので、彼らにもなじみやすい事例として、Teaching and Learningのトピックが選ばれている。

 参加者は、評価者と大学関係者に分かれ議論を行うが、議論の前に念入りに準備を行う。大学関係者役の参加者は、事例に基づいて各役割が割り振られる。そして、想定問答を作って、おのおのどのように答えるのか準備するのだ。
 評価者の役を担う参加者は、事例に基づいて、何が問題であるのか明らかにした上で、それを深堀するためには、どのように質問したらよいのか話し合う。
 互いに準備ができたところで、ロールプレイが始まる。一連の流れを見ていたが、なかなか難しいことがわかる。事例を熟読しただけでは、ロールプレイの場面で、議論ができないからだ。つまり、彼らは、事例の情報のみならず、自らの大学での経験を踏まえて議論しているのであり、換言すれば、事例を介して、互いの大学について情報交換しているのだ。

 このロールプレイをそのまま日本に導入することは困難かもしれない。参加者にわたされる情報は事例の情報のみで、あとはすべて自分たちで創作することが求められるからだ。ある意味、即興劇のようなところがある。おそらく、経験のない者は、戸惑い、容易に言葉が出てこないのではないだろうか。日本で行うとしたら、もう少し、具体的な作業や手続きを伴うものの方がよいだろう。その意味で、Evaluability AssessmentやBSCの方が進めやすいかもしれない。
 だが、その場合でも大いに参考になる点があった。それは、事例の作り方だ。できるだけ参加者の日常に沿ったなじみ易いものがよいことを先のロールプレイは教えてくれている。昨年実施したEvaluabilityのワークショップでは、手法をマスターしてもらうことを優先したために、一部の参加者にとってなじみのない事例を選んでしまい不満が出た。新ためてその理由がわかった気がする。手法をマスターするだけでなく、その過程で互いに情報交換することが大事なのだ。

 明日は最終日で、ロールプレイの続きを行う。どのような展開になるか楽しみだ。 

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