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ジェネリックから見えた医薬品の構造的問題

2015年06月19日

 健保連会長の大塚氏(JR東日本相談役)とジェネリックについてお話しさせていただく機会があった。政府はジェネリック普及率アップを目標に掲げているが、さほど大きな削減効果にはならないのではという話になった。

1. 経済財政諮問会議、財務省が掲げたジェネリック普及80%目標
 塩崎厚労大臣は5月26日経済財政諮問会議において、2020年を目途に我が国のジェネリック普及率を80%にすると発表した。今月末に発表される骨太方針にも何らかのかたちでジェネリック普及目標について言及されることだろう。
 また、財務省財政制度等審議会における社会保障関連の議論で、この数年ジェネリック問題が議論されてきた。いわば、社会保障議論の定番である。平成27年度の建議書においてもジェネリック普及率80%目標達成に向けて加速化させること、また、先発薬品(長期収載品)とジェネリックの差額分の自己負担も推し進めるべきであると述べている。特に、財務省の議論の大前提には財政健全化目標があるので、ジェネリック普及が歳出削減に寄与することを前提とした提言である。
 だが、健保連関係者の発言はそうした前提に疑問を呈することになる。実は、私の周辺の医療関係者もジェネリックの歳出削減効果については疑問を呈するものが少なくない。総合開発研究機構(NIRA)から出された算定によれば、ジェネリック普及率100%の歳出削減効果は3000億円。人によっては1000億円と述べる者もいる。その額事態小さいものではないが、医薬品総額は10兆円と比較すると小さいと言わざるを得ない。

2. 行政改革推進会議 歳出改革部会の議論 ~あらゆるステイクホルダーからのヒアリング~
 内閣官房行政改革推進会議は、今年4月より、歳出改革部会の一環として重要課題検証チームを発足し、ジェネリック問題の議論を開始したが、私も座長代理として参加している。議論は従来の審議会とは少し変わったものになった。厚労省、財務省、医師会、薬局関係者、ジェネリック製薬メーカー関係者、先発薬メーカー関係者、健保連など可能な限り多くのステクホルダーからヒアリングを行った。しかも1度に3者が同じ机につき発言してゆくのだ。
 興味深いことに各者の発言は微妙に食い違っており、必ずしも一枚岩ではないことがわかってきた。また、ジェネリック普及率が低い理由として、生物学的な安全性への懸念が一般的に語られてきたが、医療の現場の懸念は違うところにあることもわかってきたのだ。
 
3. ジェネリック問題から見えてきた医薬品産業10兆円の構造的問題
(1)ジェネリック普及を阻害する不安要因
 日本のジェネリック普及率は約57%で、以前設定した60%は予定より早く達成する勢いだ。しかし80%という目標をについて、当初、厚労省や医薬品業界も抵抗を示していた。
 では何がジェネリック普及の阻害要因になっているのか。第1の原因はジェネリックの種類の多さと名称の不規則さだ。ひとつの先発薬に対して多いもので40種類ものジェネリックが販売されている。しかもその名称のつけかたはバラバラである。医師側からすれば一体どのジェネリックを処方すればよいのか迷うばかりだという。調剤薬局もあまりにも多種のジェネリックがあるため在庫管理が困難であると述べた。また、現在の医薬分業体制では、医師が一般名で処方した後は、患者がどの薬局にゆき、どのジェネリックを処方したのかを知ることはできない。調剤薬局は、医師が銘柄指定をするとジェネリックに切り替えることができなくなると述べている。また、地域ごとに医療関係者と調剤関係者からなる協議会を作り汎用品リストを作成しているが、費用対効果ではなく、在庫情報をベースに作られており、地元の大手病院の仕入れ状態に左右されることになるという。つまり、ジェネリック使用に不安を感じる原因は、安全性というよりも使い勝手の悪さなのではないか。

(2)小規模・多数のメーカーによるジェネリック供給体制
 では、なぜ多種のジェネリックが名称もばらばらに供給されることになったのだろうか。ジェネリックメーカーの供給主体の多くは中小規模で約200社である。その数は欧州1国平均の10倍にも及んでおり、明らかに数が多いことわかる。他方、厚労省の説明によれば、工場を建設し、薬品を生産し、安全性試験に要する期間は5年を要するという。そこで素朴な疑問がおこってくる。なぜ、これだけ小規模な企業が5年もの準備期間に耐えうるのか?
 その答えは学会関係者の資料の中にあった。日本の医薬品構成に着目すると、先発薬49%、後発7%、長期収載品すなわち特許切で後発薬のある先発薬が44%となっている。長期収載品の割合でいえば、米国13%、ドイツ16%、英国18%となっており、日本の長期収載品率の割合が圧倒的に高いことがわかる。

 厚労省やメーカー関係者に長期収載品を誰が生産しているのか尋ねたが明確な回答はなかった。しかし、ヒアリングの過程で、ジェネリックメーカーが先発薬メーカーから受託していること、さらに、複数のメーカーによって共同開発されたジェネリックが、名前を変えて別個の製品として市場に出ているということもわかってきた。最近では、オーソライズドジェネリックという後発薬も生産されている。つまり、先発薬メーカーが特許切れ直前に、特定のメーカーに生産を許可し販売するというものだ。

 長期収載品の先に先発薬メーカーの問題も見えてきた。本来、新薬を創出し特許期間で回収し、その後は後発薬品に転換するのが基本である。しかし、昨今、日本の新薬創出数は芳しくない。先の長期収載品の割合の高さ(44%)は、新薬を思うように創出できないことから、長期収載品を生産することで経営を維持しているこを示唆しているのではないか。そうであるならば、現在の薬価制度では、長期収載品は適度な利益を出せることが示唆されている。

 問題の本質はジェネリックの普及率ではなく、後発薬メーカー、先発薬メーカーの双方が長期収載品に依存している医薬品供給体制にあるのではないだろうか。そして、それは市場競争がうまく機能せず、高止まりになる可能性さえ示唆されている。

(3)需要側のコスト感覚の薄さ
 では、なぜこのような状況を許容できるのだろうか。私は、需要側、すなわち医師や私たち患者側にも問題があると考える。それはコスト感覚の薄さである。ヒアリングの際、医師会の代表は「勤務医時代には価格について意識していなかったが、開業して初めてこんな高い薬を処方していたことがわかった」と述べた。また、患者側である私たちの中にも「高ければよい薬」と考える者も少なくない。実際、英国などでは高額なため一定以上の症状でなければ処方しないと定められている降圧剤(ARB)が、日本では一般的に処方されている。こうしたコスト感覚の薄さが、上述のような供給体制を許しているのではないだろうか。

 医薬品問題はまさに、供給側、需要側が抱える問題が複雑に絡み合った構造問題である。添付資料は6月18日に開催された行政改革推進会議に提出した資料で、この構造を可視化したものである。
 後発薬品促進にかかる構造問題_A3Tanaka20150618

 ジェネリック普及率の問題ばかりに目を奪われていては問題の本質を見逃すことになるだろう。真に歳出改革をめざすのなら、医薬品の構造問題に着手すべきである。

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