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”小4なりすまし”と政治活動の意味

2014年11月26日

1. 安倍首相の逆鱗に触れた”小4なりすましサイト” 
 11月25日、20歳の大学生が小学4年生の中村さんになりすまし、自ら開設した政治サイトで「どうして解散するんですか」と疑問を投げかけた事件がニュースになった。安倍首相がこれに対して「批判されにくい子供になりすます最も卑劣な行為だと思います」と自身のfacebookで批判をしたためだ。
 私もネットでこのニュースを読んでいたが傍観者の立場で読み流していた。そのような最中、ラジオのJ-Wave カッテイング・エッジという番組のディレクターから連絡があった。先の事件が、NPO法人問題に発展しているというのだ。「なぜ?」というのが私の最初の応答だった。なりすましの問題が、なぜNPO問題に発展してしまうのか。ディレクターによれば、NPOが政治活動をすることが議論になっているという。そして、この点について番組で意見を聞かせてほしいというものだった。何か問題のすり替えがおきているように思え、番組出演に応じることにした。

2. 議論のすり替えがおきていないか
 番組のパーソナリティは津田大介氏であった。たった12~13分のやりとりの中でも議論を深めようとする津田氏の意思が伝わってっきた。冒頭から、この問題についてどう思うのか尋ねられた。私は、ごく端的に次のように答えた。
 この問題は、何もかも一色たんにせず、その内容を分けて考える必要がある。
 第1に衆議院解散の是非を問う行為は悪くない。
 第2に多様な視点、立場の者がそれを問うことも悪くない。
 第3に身分を偽り、多くの読者を欺いたことは非常にまずい。

つまり衆議院解散について、子供を含む多くの国民が疑問を投じることは悪くないのであって、そのことと、身分を偽り欺いたことと混同して議論してはいけないという意味だ。ちなみに、私個人は、首相の反応は正しい反応であると思っている。

3. NPO法に記された「政治活動を主たる目的としない」の意味
 しかし、津田氏は「NPOが政治活動をすることはどうなのか」と質問を続けた。NPO法人格を取得するための基準として「政治活動を主たる目的とするものでないこと」と記されているにもかかわらず、政治的な活動をNPOが行ってもよいのかと問いたかったのだろう。

 私は、アメリカの内国歳入庁が示す「非政治性、非宗教性」のガイドラインを例に挙げて説明した。アメリカでは、ロビングなどを行う圧力団体とチャリティを目的とした団体は、別法人として分類され、税制上の扱いが異なるからだ。ガイドラインでは、政治的な中立性を証明することを求めず、政治的な活動として何を行ってはいけないか、つまりネガティブチェックリストが示されている。たとえば、「特定の政党や候補者の応援演説ををしない」、「特定の政治家への献金を行わない」などだ。換言すれば、それ以外の政治的な活動はチャリティ団体でもOKであり、たとえば、政治的なアジェンダについて討論会やフォーラムを開くことは、広く市民教育の場として認められているのだ。

 日本でも、小中学生に模擬選挙の場を提供するNPOがある。若者の選挙離れを防ぎ、将来の有権者に賢い選択をしてもらうための教育活動である。私が理事をつとめる言論NPOは、選挙時に、有権者の判断材料として、政権与党の実績評価書と各政党のマニフェストを政策別に評価し、その結果を公開している。また、全立候補者にアンケート調査を行い、その結果を回答の有無も含めて選挙区ごとに公開している。いずれの活動も、有権者や市民の視点から学習や議論の場を提供するもので、民主主義の基盤を強化してゆくために重要な活動である。
 この議論に基づき、”小4なりすまし事件”を例に挙げて考えれば、NPOが衆議院解散の是非について疑問を投じる行為自体はNPO法に反するものではなく、市民教育の一環として捉えることができる。しかし、それが特定の政党を応援するためのネガティブキャンペーンの一環であった場合には法律に反する行為である。

 やや遠回りをしたが、「政治活動を主たる目的としない」の意味とは、つまり、選挙活動をしないということなのである。政治に関心を持つことは市民として当然のことであり、むしろ無関心であることの弊害が顕著なのが現状であろう。政治学科で政治を学んだ者は”政治活動”をしたとは言わないだろう。メディア(この番組を含めが)政治的な問題を取り上げ、議論することを政治活動とはいわないだろう。
 
 何か基本的なところで議論のすり替えが起こっていたように思うが、「政治活動」の意味に対するメディアの誤解や認識ギャップが予想以外に大きいことを垣間見る事件であった。

 
 

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