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新著『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』(集英社)

2012年10月11日

田中弥生著『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』集英社、2012年

新著『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』(集英社 1400円)が10月26日発売ですが、既にアマゾンでは、予約販売が始まりました。

以下、序章「21世紀の本当の教え」の冒頭抜粋です。

1.   あまり語られないドラッカーのもうひとつの思想

 ドラッカー・ブームが再び訪れています。以前は、ドラッカー・ファンといえば圧倒的に中高年層が多かったのですが、最近では若い人々の間でも人気があります。また、日本に限らず、リーマン・ショック以降、アメリカで静かなブームになっていました。

しかしながら、ドラッカーの教えは真に理解されているのだろうかと疑問に思うことが度々あります。たとえば、ドラッカーは組織のマネジメントに興味を持ったのは、アメリカのGM社から調査の依頼を受けたからだと言われます。確かにそれは契機をつくりましたが、真の理由ではないのです。

なぜ、NPOなどの非営利組織に関心を持ったのでしょうか。エンロン事件など、企業の不正が露呈し、企業に失望したからだと説明されることがありますが、それも真の理由ではありません。

ドラッカーは企業のマネジメント論でよく知られていますが、マネジメント論のみに目を奪われていると先の問いに答えることはできないのです。なぜならば、それはアメリカに渡る以前のドラッカーの思想を視野の外においてしまうことを意味するからです。

その思想とは、自由を奪われることを心底嫌い、ナチスの全体主義と闘っていた青年ドラッカーが築いた思想です。それは自らを危険にさらすことを覚悟で記したナチス全体主義に関する批判的分析であり、ナチスが破れ第二次世界大戦が終わることを前提に、次の時代として予期した企業社会の統治の在り方を示したものです。

しかしながら、その思想を理解するためには、世界大戦前後の欧州の地理的・歴史的背景の他に、政治思想史、哲学、宗教学などの幅広い教養と大局観が求められます。そのせいでしょうか、日本ではこの時代のドラッカーの思想はあまり知られていません。また、その理解は曖昧なものになりがちですが、私もその一人でした。

たとえば、ナチスは全体主義ですが軍国主義ではありません。日本では、全体主義と軍国主義の区別は曖昧ですが、この点を明確に理解しないと、なぜ、ドラッカーがナチスを深く敵視したのかを理解できないのです。

また、ドラッカーは人類の自由の起源をキリスト生誕の紀元後であると述べています。しかし、一般に、人類の自由の起源は紀元前の古代ギリシャにあると言われているのです。なぜ、あえて紀元後としたのかを理解しなければ、ドラッカーが求める自由社会の真の意味を理解することはできないのです。

 そして、この思想にこそ、ドラッカーがマネジメント論に着手したことや非営利組織や市民社会に強い期待を寄せていた真の理由があるのです。

今こそ、ドラッカーの思想の原点に返りながら、その教えを学ぶべきであると思います。なぜならば、日本社会の混迷は表面的なものではなく、社会秩序や統治をも揺るがす本質的なものだからです。ドラッカーは、地下鉄サリン事件をみて、すぐさまオウム真理教の若手幹部に着目し社会秩序崩壊の予兆を指摘しました。知識社会の到来と共にうつ病患者が急増することを指摘したのは1960年代でした。いずれもあまりにも適切な指摘でしたが、それを可能にしているのが氏の思想の原点なのです。

私とドラッカーの出会いは非営利組織研究であり、以来、普段着の会話を通じて、コミュニティに生きるドラッカーの日常を学びましたが、だからこそドラッカーの思想の原点に気づくことができたのだと思います。そして、今、氏の教えを伝えることは私の使命だと思い本著を記すことにしました。

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